閉じていた目を開ける。ぱちり。目の前に広がっていたのは、近所にある見慣れた公園。今座っているベンチは背もたれもお尻のところも冷たい。
寒いわね、アンテナ売りさん。
私は隣に座るアンテナ売りさんに話しかけた。寒い。本当に寒い。
もうすぐ雪が降る季節ですから、と今朝アンテナ売りさんがぼやいていたのを思いだしながら、自分の指にはあと息を吐く。
それは悴んだ指先に行き渡るよりも先に白く霧散していった。
何度かそんなことを繰り返しているうちにふと思い立ち、アンテナ売りさんはそんな格好で寒くないの?と問う。
そっとその手を握ってみたら、長く北風に曝されていたアンテナ売りさんの指は自分と同じようにつめたく冷え切っていて。
仕方ないんだから。もう、それじゃあ半分こね、と笑いながら、首に巻いていた赤いマフラーをアンテナ売りさんの首に回し、自分もその輪の中に入って密着する。
幸いこのマフラーは長めだったから、座高の差は気にならなかった。
こうしているとなんだか安心できて、アンテナ売りさんの肩にもたれるようにして空を見上げたけれど、鼠色の雲が厚く漂っているだけ。
よくよく見たら、なんだか雪が降ってきそうかも。
アンテナ売りさん、今年の初雪はいつ頃降るのかしらね。もしかして今日だったりして?なんて分かりもしないことを口にしてみた。きゅっとアンテナ売りさんの手を握りなおしながら。
ねえ。
ねえったら。
あら、寝ちゃったのかしら?
アンテナ売りさんの目は、眼鏡のレンズの向こう側で閉じられていた。
このままじゃ風邪引いちゃうから、屋敷に戻らなくっちゃ。アンテナ売りさん、起きて。
目、開けて。
ねえったら。呼び掛けても目が開かない。
仕方ないから肩をゆさぶってみた。
マフラーがするりと解けて地面に落ちる。
ごとり、と続けて落ちる音。
アンテナ売りさん、あなた、首、どこにやっちゃったの?
マフラーが落ちてしまった寒さか、この光景の不気味さからか震えながら問い掛けたけど、首無しのアンテナ売りさんは勿論何も答えない。
さっきの音はアンテナ売りさんの首が足元に転がった音だったのか、と理解するのにはかなりの時間が掛かった。
どうして?さっきアンテナ売りさんとマフラーを半分こしたときにはこんなことになっていなかったのに、どうしてどうしてどうして?
弾かれるようにベンチから降りて、地面に落ちたアンテナ売りさんの頭を拾いあげて問い掛ける。
すると堅く閉ざされていたアンテナ売りさんの瞼がばちりと開いて、


「      」


声にならない声を上げてアンテナ売りさんが何事か叫んでいた。






「さま、……お嬢様、起きてください」


アンテナ売りさんの声がする。何も視界に入らないのと、アンテナ売りさんの言葉から、私は眠ってしまっていたらしい。閉じていた目をぱちりと開けようとしたけれど、体が言うことを聞かない。
なんだかとても眠い。


「ベンチで眠ったりしたら風邪を引いてしまいます」


アンテナ売りさんが私の肩を揺する。
ああ、だめだ。だめ、アンテナ売りさん。私は何故だかやめて欲しいと思い、けれど声も出なかったのでされるがままになっていた。

あっ、

マフラーが解けてするりと解けて地面に落ちる。

ごとり。

間髪入れずに、やけに低いところからアンテナ売りさんの悲鳴を聞いた。






***
ただなんとなくふたりの首が取れるだけのお話。





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