「何のつもりですか?それ。」
「ポッキーゲームです」
「そうですか。ではどうぞお一人でごゆっくり」


例の彼が、例の菓子のチョコレートのついていない方を真っすぐにくわえて近づいてくるものだから。

反射的に後ずさっていたら、数歩といかないうちに背中が本棚に当たる。書庫に彼を入れたときから、この位置取りは向こうの計算通りだったのだろう。
まんまと逃げられないように壁と彼に挟まれてしまった。顔の横に手を置かれ、目を逸らすのも癪なのでその目を仕方なく見ていてやることにする。


「ミシェルさんがしてくれるまで帰りません」
「帰れなくて困るのは貴方でしょう」


そもそもこんな戯れに何の意味があるというのか。
両端から二人で少しずつお菓子を食べていくと、最終的には距離がゼロになり口づけになる。わざわざそんな遊びをしなくとも、彼とは幾度となくその結末にあたる行為をしてきた。
今更何を、馬鹿馬鹿しい。


「仕方ありませんねぇ。終わったらすぐに帰ってくださいね?」
「えぇー…」
「それと貴方は目、閉じててください。僕が全部食べますから」


嫌ならやりません、と付け加えると、彼は渋々といった様子で了承して瞼を伏せた。
食べやすいようにとしているのか、顔が少し近づいてくる。身長差があるせいでやや上の方から伸びてくるポッキーを見遣ってから、溜息を一つついて。


「っ…!?」


下ろしていた左手でポッキーをその口から抜き取ってやり、右手を後頭部に伸ばし、くいと引き寄せて短く口づけた。
流石にこれには予想外だったらしい、驚きを隠せないような表情。目を閉じていろと言ったのに、仕方のない男だ。


「こうしたかったんでしょう?」


優しく問い掛けてみたが、返答は無い。
隙だらけになったその腕からするりと抜け出て彼から離れ、奪い取ったポッキーを何とは無しに口に入れてそこそこの長さで折り噛みしめる。
口の中に甘いチョコレートの味が溶けて、すぐに消えた。


「だとしたら時間の無駄ですから」


にっこりと微笑みながら振り向く。
いつの間にやら向こうもこちらを振り向いていて、何やら色々と言いたげな複雑な表情をしていたが、やがて諦めたように口角を上げながらつぶやくように一言。


「…約束通り、今日はもう帰ります」
「ええ。お引き取りください」


半分以下の長さになった先ほどのポッキーを口に放り込みつつ、どこか敗北感の三文字を背負ったような、いつもより少し小さく見えるその後ろ姿を笑顔で見送った。





***
間に合わせ感溢れる11/11記念文。
構想時間2分くらい。





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