ミシェルさんの腰に手を回し、まるで正面から覆いかぶさるように話し掛けた。否、これはちょっかいを出すと言ったほうが正しい。
人気のない、夕暮れに沈む図書館の特等席。息苦しく本の山に囲まれた部屋の中の、貴方の隣。
貴方は少し笑ってから妖しげに目を細めて、俺の言葉を待っていた。
「ミシェルさん。貴方、誰でもイイんでしょう?」
甘く微笑みながら、爪を刔り込ませるように放つ冷たい言葉。でもそれは、常日頃抱いていた小さな疑問を思うまま素直に尋ねただけのこと。
訪れる客に等しく笑顔を与えて。彼を手酷く貶る俺にさえそれは変わらない。穏やかで妖艶に笑う。何を考えているのか分からない笑み。
それでいて、閉館時間を過ぎた図書館の、それも鍵の掛けられる書庫や司書室の中に俺を招き入れたりもして。
「そうかも知れませんね」
ミシェルさんは俺の言葉に別段傷つく様子もなく、いつもの声色といつもの声量で応えた。
やはりか。
彼を不快にさせるために、傷つけるつもりで尋ねた癖に、変に傷ついたのは俺の方だったかも知れないな、と考えた。
俺を此処に呼んでない日にはもしかしたら誰かを招き入れているのかも知れない。
思考に落ちていこうとしていた意識は、ミシェルさんに掬い上げられた。柔らかく頬に手を置かれたかと思ったら、短い口づけが与えられた。
「でもね…今は貴方がイイんです」
駄目ですか?と言わんばかりに悪戯っぽく見上げてくる。目が合ってしまえば、俺は正常な判断をすることができなくなる。
貴方のそんな熱っぽい目を見てしまっては。
「光栄です」
にや、と笑ってから、強くミシェルさんを抱き寄せた。
(そうたとえ今はこの瞬間だけだとしてもいずれ)
***
落としてやるぜ的な。だそうです。
これも昔書いたやつ。