本棚の前にいる貴方はすごく絵になりますね。襲いたくなります。あまりに綺麗なものだから。
そうしたら貴方は御冗談を、と笑った。俺は冗談のつもりは無かったから、襲うつもりで貴方を本棚の前まで追い詰めた。
彼は整然と立ち並んでいる本棚を背にしていると、まるで。
「貴方は俺の天使ですよ、ミシェルさん」
「はっ…よくも言えるものですね。そんな台詞が」
ガラス越しのその瞳をガラス越しに見つめてから、へし折れそうな両腕を軽々片手で拘束した。不服そうに睨みつけてくる視線に、何故か笑みが漏れる。
こちらに対する嫌悪を突き刺さるほどに放出している青と金はやたらと綺麗過ぎて。
「だから」
あまりにも吸い寄せるように美しかったものだから、その双眸を見つめたままで唇を貪った。
「…ん、んッ…!!」
信じられない、と言うように見開かれた目。そんな表情だろうと彼自身の美しさが損なわれることはなく、それでも少しずつ乱されていく姿に嗜虐心が顔を覗かせる。
汚されても尚美しい人だから、どこまで暴けば美しさを失うんだろうか。深く深く閉じ込められた本性を曝け出してやりたい。腹の奥底に飼っている闇を、瞳の最深に隠された悪魔をこの手で掴んで引きずり出してやりたい。
だから、呼吸を奪うように長く長く口付けた。荒く漏れる吐息の中に、抑え切れなかったらしい声が混ざり始める。
彼の拒絶は、緩い焦らしを加えてやればやがて色情に変わっていくのを知っているから、頃合いだとばかりに口を離した。
「はぁ…はぁっ…、っく…!」
僅かに汗ばんだ彼の白い肌は、閉館時間を過ぎた図書館の闇と対極をなしている。
止まらない。もっとも、はじめから止めるつもりなど毛ほどもないが。
戒めていた手を解いた所で、今更抵抗などあるはずがない。故にわざと緩慢な動作で手を離し、代わりにミシェルの腰に手を回して距離を詰めた。拘束を全身に広げ、加えて彼の耳元でそっと囁く。
「俺の汚い心、受け止めてくださいね」
受け入れられたか、拒まれたかは知らない。返事を聞くよりも先に、再びその唇を塞いだから。今度は目を閉じて、あたかも甘く、愛おしさを感じさせるように優しく。
やがて彼の手がゆっくりと背に回ったのを感じ取ると、また再び笑みが零れた。
***
兄ミシェ処女作だったもの。
昔っからこんなシチュばっかです。