アンテナ売りさんが落ちてきたら、私は受け止めてあげようと思ったの。だから、アンテナ売りさんが屋根の上で仕事をしているとき、私は屋根の下からずっとアンテナ売りさんを見つめていた。



でも、見つめつづけているうちに気がついてしまったわ。アンテナ売りさんは一流のアンテナ売りだったから、屋根から落ちそうな気配なんて全然感じさせなかった。

一切ふらつきもせずに、慣れた手つきで仕事をしているアンテナ売りさん。その様子は見ていてとても素敵だったけど、私はそれだけじゃ嫌だったの。
だって落ちてくるアンテナ売りさんを受け止めてあげなくっちゃいけないんだもの、アンテナ売りさんが落ちてこなければ駄目でしょう?



でもアンテナ売りさんは落ちてくれない。けどどうすればいいのかは、もう思いついているわ。


「お嬢…様…?!!」


私が、アンテナ売りさんを落としてあげればいいの。


だって私が落とさなければ、アンテナ売りさんは落ちてこないから。私がこっそり屋根に上がって、その背中を強めにとん、と押せば、いくらアンテナ売りさんでも屋根から落ちてしまうわ。

ああ、アンテナ売りさんが落ちていく!
私が待っていた瞬間だわ!!


「あぁっ…アンテナ売りさんっ!!」






落ちていくアンテナ売りさんを見て、私はようやく気がついた。ぽろぽろと涙が出た。



私がアンテナ売りさんを落としたら、アンテナ売りさんを受け止めてあげられないじゃない。



慌てて屋根の縁に立つと、私に受け止めてもらえなかったアンテナ売りさんが見えた。さっきまでアンテナ売りさんだったモノが見えた。ぐしゃぐしゃでどろどろでぼろぼろのモノが、庭先に広がっていた。


涙が屋根の下に落ちていく。アンテナ売りさんが落ちていったときのように、真っ直ぐ地面に向かって。


「お嬢様…ああ、愛しいお嬢様…」


アンテナ売りさんの声!
アンテナ売りさんの声がした!!
私の涙を浴びたアンテナ売りさんは、ぐしゃぐしゃでどろどろでぼろぼろの体のまま、私を見上げていたの!


「アンテナ売りさん!?アンテナ売りさんなのね?!!」

「そうですよお嬢様…。さあ…!」


両手を広げた血みどろのアンテナ売りさん。私ができることもしたいこともやらなくてはいけないこともただひとつ。


「受け止めてね、アンテナ売りさん」


私は、迷いなく飛び降りた。
アンテナ売りさんと触れ合えて、私は今までで一番しあわせだった。







シャララ シャカシャカ

少女の頭の上でアンテナが回る。



二人は折り重なったまま、いつまでもいつまでも。






***
奇跡の手直し無し。
お嬢様は致死量の天然レベルということで。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -