「、ん…」


黒い空も、そろそろ蒼くなっていく時刻。
恋人と抱き合ってその腕の中で眠り、ふと目を覚ましたときのこの不思議な気分。

窓に引かれたカーテンの隙間から覗く景色は、現実なのか夢なのかの区別がひどく不鮮明で不明瞭。
そんな中で頼りないながら、数少なく現実を含む要素が1番側にあった。


「起きちまったか」
「…神こそ」


肌と肌を合わせて繋がりを求めて、交わったけれどやがて離れて。名残を惜しんで再び肌を合わせて、こんなに近くにいるのにと、ゼロにならない距離を悔やみながら眠りに落ちた。
なにもかもが不確かで、儚く消えてしまいそうで。やがて朝が訪れるまでのこのひとときの夢と現の間は、どこか居心地がよいような気もした。


「神…」
「ん」


事の前にはあれだけあの指を、手を、声を拒むくせに、今は触れたくて堪らない。距離を詰めて背に手を回す。それから顔を擦り寄せて、互いの体温を確かめた。

らしくない。こんな、こんな…、甘えているみたいなことをして。


「どした?」
「……寒い」
「ああ。んじゃ暖房入れる」


咄嗟の言い訳は履き違えられてしまったようだった。
MZDはサイドテーブルにある暖房のリモコンを取ろうと、その身にしがみつくようにして甘えるナカジをやんわりと引き剥がそうとした。
このなんとも素直じゃない少年が自らこんなに触れたがるなどなかなかあることではない。故にほんの少し勿体ないような気がしたのだが。


「ほら、リモコン取れねぇよ」


弱く押し退ける手に加えて言葉も付け足して外そうとするも、ナカジは聞き入れる様子がない。
少し、嬉しい溜息が出た。


「おいってば」


だがMZDとしては風邪など引かれるわけにもいかないわけで。ひとまずベッドの上に体を起こしてまじまじと現状を見れば、自らの胸に顔を埋めているこの少年が愛おしくなる。
だからその細い背中に腕を回し返してやった。宥めるように掌で優しく撫でて、さらさらと流れる黒髪に口づけた。


「…寒い」
「知ってる。だから暖房…」


窓から射す空の光は濃い藍色になっていた。


「そんなのいらない」
「へぇ?」
「だから…さ。」


今まで大人しく抱きしめられていたナカジは腕の中からするりと抜けて膝立ちになり、今度は首に両の腕を絡めて横顔に縋りついた。
MZDの外し忘れた左耳のピアスにナカジの唇が触れ、その数秒後に少しの躊躇いを含んだ声色が囁いた。




「あんたがあっためて」








寝台に仰向けられたのは細い躯。白い肌もシーツも縹に染まった。じき、朝鳥が鳴いて夜が明けるだろう。

しかしその見上げる黒の目見は熱を帯びてこちらを誘い煽るようで。黒に融け出した深い青が美しくて、見下ろすだけでは物足りない。


「もう朝んなるけど?」


吐いたのは建前と虚で、吐きたいものは本音と欲で。
言葉と身体は互いに欺きあったけれど、気がつけばそのどちらも彼を求めていて。
招くように伸びてきた腕を取って、また躯を重ね合わせた。


「…いいよ、あっためてやる」






(もしかしたら夢かも知れないけど、今はこの体温を)







***
昔書いたのをちょろっと手直ししたもの。
恥ずかしい。


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