秋は夕暮れ。とはよく言ったもの。
日が遠ざかり藍色になっていく一方で、燃えるように沈んでいく橙と赤。
衣更え、肌寒くなる季節にしまっていたマフラー。
四季のはっきりしたこの場所。風情があってたまらない。

ひゅうと秋風に髪が揺られ、帽子がさらわれそうになって左手で押さえる。
吐く息は少しだけ白い。
腕を組んで空を見上げる。烏だかなにかの鳥が何羽か連れだって空を飛んでいた。

今背にしているのは、とある校門横の塀。
もたれ掛かるようにして体重を預け、ポケットから携帯電話を取り出して開く。
いつもなら我が物顔で校舎に入って目当ての人間を掻っ攫って行くところだが。
そんな破天荒なことをするたび嫌そうな顔をされるのは慣れているが、今日はなんとなく気分ではなかった。


『今学校?今日俺ん家来ねえ?』


液晶画面にその短い文章だけ打ち込み送信。
既に帰宅してるってことは無いだろう。毎日毎日、飽きずに放課後の音楽室を占拠してはギターの練習に勤しんでいる奴なのだから。
その歌声とギターの音を思い出していると、メールの着信を知らせるバイブレーションが鳴った。


『暇人め』


それは全角3文字分の短すぎる返信で。
素直じゃないのはとっくに承知の上なので、拒否する文面が無いことを見て、誘いに乗ったという風に受け取っておくことにする。
それにしても、ただ家に誘うメールを送っただけで暇人呼ばわりである。無意識の内に喉の奥から小さな笑い声が漏れた。


「即行返事返しちゃって、どっちが暇人だか」


メッセージの送信時間と受信時間を見比べると、奴には申し訳無いが口角が上がるのを止めきれない。
こんなことを口にすれば間違いなく怒る。無論、照れ隠しで。今しばらくの間は黙っていてあげるが、残念ながら優しさ半分からかい半分だ。このにやけの原因は少しだけ独り占めにしておくことにし、携帯をポケットに押し込む。

再び腕を組んで上機嫌に見上げれば、青から赤紫色の見事なグラデーションの空にせっかちな明るい星が何個か瞬いており、間もなく夜になろうというところであった。


「…早く出てこいよ。音楽馬鹿」


そして間もなく、背後の塀の向こうから微かにカランコロンという独特の足音が聞こえてきた。
やや慌ただしそうに響くその音に更に機嫌を良くし、奴の到着までの数十秒間、ひとり笑い声を抑えるのに必死になっていた。





(小走りなんて可愛い奴!)
(驚かすな!暇人め!)







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