選択授業
普段の授業と違って自分で好きな授業を選んで受けれる特別な時間
稲荷崎は何個か選択授業があって、
日本史、世界史、地理、現代社会という社会系
美術、音楽、書道という芸術系
化学、生物、物理、地学という理科系
その中でも今日は現代社会の授業
別に社会が好きってわけでもないけど、この授業は特別だったりする
理由は簡単
「琴葉ちゃん、宿題やった?」
隣に座っているのは治くん
そう、この授業はたまたま治くんと被っていて、しかもランダムに決められた席なのに隣同士という何とも奇跡的な授業なのです
「うん、もしかして治くんやってないの?」
「1個だけ分からんとこあって…琴葉ちゃん教えてや」
「ふふ、私で良ければ」
最初の頃に比べたら随分会話にも慣れたと思う
治くんと話してると落ち着くし、変に緊張しないから楽
他の男の子と話すとどうしても気を遣ってしまうから貴重な存在だ
「なあ、この前の聞こえてた?」
「?」
何のことだっけと思い返してみるけれどピンとこない
そんな私を見た治くんが小声で「告白されたってやつ」と続けてきたので、あの侑くんが怖かった時のアレかと合点がいった
「治くんモテるんだね」
「…嫌やなとか思わんの?」
嫌だなんて思うのは治くんの事が好きな子だけ
そのはずなのに、あの時確かに胸がチクリと傷んだのを覚えている
推しが結婚発表をした時のファンの気持ちに似たものなのかな?
「もしかして好きやないけど付き合ってくれとるん?」
治くんが目をぱちぱちさせて私を見つめる
真っ直ぐな視線に罪悪感が生まれてしまって声が出ない
どうしよう、傷つけてしまったんじゃ…
「ま、ええわ、これから好きなってもらうし」
「え…怒らないの?」
「よう考えたら俺は琴葉ちゃんのこと知ってても、琴葉ちゃんは俺のこと全然知らんもんな
ゆっくりでええから知って」
「は、はい」
「んで、好きなって」
「っ!」
何やら楽しそうな治くん
余裕そうな笑みを浮かべて私を観察するみたいに眺めてる姿はまるで侑くんみたいだ
流石双子、些細な仕草までそっくり
けれどやっぱり治くんは怖くない
侑くんとは違うところだ
というか周りの生徒が各々の会話で盛り上がってくれてるから会話聞かれてないけど、授業前だし流石にこの話はしない方が…
「嫌われることはないと思うけど、今更離す気ないから」
ああ、神様
私は前世にどんな徳を積んだのでしょうか
こんなイケメンに慕われるなんて国でも救ったのかな
なんてお馬鹿な事を考えながら、治くんとのこの時間が案外好きだと実感していた
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