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かの昔、安倍晴明の神力を分け与えられた巫女がいた
その巫女は二匹の妖狐を従え、晴明と共に妖退治を行ったと言う

この世の不浄から生み出される妖に心を巣食われる人間達を守るべく巫女は最後まで戦い続けたと言う




「ってことなんやけど、ホンマ?」


教科書から二匹に目を移せば、二匹ともぶんぶんと首を縦に振っている
ちなみに今は二匹の部屋で互いに正座して向かい合ってる状態
響と美嘉もこの様子を見守っている


「俺らな、妖の中でも位の高い妖やねん」

「巫女が式神になれって乗り込んできてん」

「「むっちゃ腹たったわあ」」


ぷんすかと怒る二匹は今は人型で話している
感情に合わせてぴょこぴょこ動く耳は見ていて飽きない


「でも巫女の式になったんやろ?」

「せや、巫女と勝負してんけど負けてもうたんや」

「せやから力を貸したることにしてん」


響の問いに今度は誇らしげに答えた二匹
どうやら巫女との関係はあまりよろしくなかったらしい


「俺ら妖の世界には王がおるんやで」

「王?」

「妖を束ねる偉い妖や」


二匹はスケッチブックを取り出してきて何かを書き始めた
美嘉はその絵を見て「うわ」と声を上げていた
二匹の絵は画伯と呼べる代物だったので無理もない


「三大王や」

「三大王やで」

「三大王?三人もおんの?」


聞くと一匹では日本各地の妖は束ねきれんみたいで、各地に領主となるボスがいるらしい
そのボスをまとめるのがこの三大王とのこと


「酒呑童子、玉藻前、大嶽丸やで」

「玉藻前は俺らの上司、妖狐を束ねる頭や」

「大嶽丸は鬼を束ねる頭」

「酒呑童子はその他の妖の頭」

「「そしてこの稲荷崎の地の領主は俺らや」」


自信満々な二匹に今度は私たちがぽかんとした
こんな見た目小学生の妖狐が領主だなんて稲荷崎は大丈夫なんだろうか
その不安は響も同じだったらしく、即座に雷牙を出していた


「お呼びですか、主」

「雷牙、この二匹が領主ってほんまか?」

「これはこれは、金狐様銀狐様ご息災で何より」

「おお、雷牙大きなったなあ」

「かっこようなったなあ」


雷牙…普通の狼より二倍も三倍も大きい狼をぺちぺちと触る妖狐二匹に美嘉も開いた口が塞がらないらしい


「正真正銘この御二方が稲荷崎の領主殿です、我が主」

「ほんまの事やもんなツム」

「ほんまの事やのになサム」


雷牙に跨ってあそび始めた二匹を他所に響が頭を抱えた


「今更やけど七歌、ホンマにヤバい奴を式にしてもうたんやないんか」

「そうよ、領主を式にだなんて気に入らない妖から狙われるかも」

「「心配せんでええ」」


二匹が私の背中にもたれ掛かるように後ろから飛びついてくる
そしてその目は響と美嘉を見据えている


「元々稲荷崎の地は妖気に満ちてて妖を呼び寄せやすいんや」

「陰陽師たちが稲荷を社にしたんもその為や」

「俺らは妖と言えど七歌の式」

「主を護るんが式の役目」

「「歯向かうやつは食ってまうから安心しい」」


ニコニコと笑ってるのに、その言葉は鋭利なナイフのようで、私たち三人はゴクリと息を飲んだ
愛くるしい外見とは反してなんて恐ろしい妖狐達だ


「それより響ゲームしようや!」

「この前の続き!はよう!」


うって代わり無邪気にはしゃぐ二匹の姿を見てどちらが本当の顔なのか、そんな疑問はぐっと飲み込んだ

巫女は一部の妖が起こした百鬼夜行を止めるべく妖狐に神力を与え、その命を引き換えにしたという
私もその時が来たらこの二匹に食べられてしまうのだろうか





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