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「おはよ、七歌」

「おはよ美嘉」


教室に入るやいなや待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってきた美嘉
昨晩は帰ってからゲームして盛り上がる子狐達を他所に宿題に没頭していたためかなり眠い


「その様子だとなんとか終わったみたいね」

「ギリギリやけどな、響は?」

「さあ?また飛び込んでくるんじゃない」


美嘉の予想通り予鈴がなると同時に教室に飛び込んできた響にクラス中に笑いが起こる
へらへら笑ってる響に先生の喝が入った時、窓の外から妖の気配を感じた

校内は結界が張ってあるので入っては来れないはずだけれど、窓の外に、しかもこの教室を覗いているということは私達の存在に気がついているということ

下手に刺激すると面倒なので廊下側の窓の反射で相手の姿を確認する
大したこと無さそうな妖だ

響と美嘉も気がついているのか顔には出さずとも目が笑ってない


「(相手は一体、特に強そうでもない…なら)」


机の下で印を結び、侑と治を呼び出す
この二匹は神力を持たない人からは見えないため教室で出しても問題はない


「呼んだ?」

「わ、何ここ」


教室が珍しいのかキョロキョロしてる妖狐二匹
声に出さずに二匹に「窓の外におる妖食べてええよ」と心の声で伝えると、二匹は目を輝かせて窓の外に飛び出した


式神は物体をすり抜けることも出来るため窓を開けてあげる必要もなく、とても便利
少し経ってから帰ってきた二匹は満足気に私の机に腰掛けている


『黒板見えん、降りなさい』

「ほー、これが学校ってとこか」

「あ、響おるでツム」

「ほんまや!」


響も見えているはずなのにあくまでポーカーフェイスを演じている
そりゃあそうだ、授業中にいきなり話し出したりしたら完全にアウトだもんね


「響!昨日ゲームでハイスコア更新したで!」

「…あれ、見えとらへんのかな?」

『見えとるわ、授業中やから大人しゅうしとけ』


響の心の声が聞こえたのか、二匹はぱああっと顔を輝かせた
ああ、これは嫌な予感
ポンッと人形になった二匹は響にちょっかいをかけ始める
響は微動だにしないものの、流石に大変そうなので心の声で二匹の名を呼ぶ

今更だけど、私達は神力を駆使して言葉を相手の脳内に直接飛ばすことも可能
万能に見えるけど使いこなすにはかなりの神力と根気とがいるため意外と難しい

呼べば即座に私の元へ帰ってくるあたり、式神にとって主従関係は重要なのだろう


「ええな学校」

「楽しそうやな」


はしゃぐ二匹を他所に授業は進んでいく
後で美嘉に黒板を見せてもらうことにして今は目の前の二匹に構ってあげようか


『侑、治、今日はこのままここにいる?』

「ええの?!」

「おる!」

『ほな大人しくしとくんやで、人様に迷惑かけたらあかんからな』

「「はーい」」


嬉しそうに人形に化けて教室を走り回る二匹を眺めていた美嘉と響は呆れたようにため息をついた
本来陰陽師と式神との関係は主従関係
用がある時にだけ式を呼び出すのが普通だけれど、どうやら私はこの二匹に甘いらしい

弟のように可愛がっているせいかたまに式だということを忘れてしまう



「式とは主従でいないといけません、式と言えど妖、従うに値しないと認識すれば式は術者を襲います

心は許しても決して馴れ合ってはいけません」



いつだったか先生に教わった事が脳内に反芻する
今の私は陰陽師として失格だろうけど、それでもこの二匹は他の式とは何かが違う気がする

それが何なのかは分からないけれど私に牙を向くことはないだろう、そう思える何かがあるような気がした


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