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時は経ち私は中学生になった


「七歌!悪いそっち行った!」


響の声を聞いて上を見上げれば妖が私目掛けて口を開けている


『ウマソウナニンゲン』


にいっと笑うその顔を眺めながら口を開いた


「侑、治」


瞬間、私と妖の間に薄い膜のようなものが出来た
ストンと地面に足をつけた金狐が張ったものだ
そしてもう一匹の銀狐は妖の頭上に降り立つ


「なあ、食ってええの?」

「ええよ、お食べ」

「ほないただきます」


ぐわっと口を開けた治
すると妖はその口に吸い込まれるように消えてなくなった

それを確認した二匹はポンッと音を立てて人間の姿に化ける
あの時はまだ幼い風貌だったのに、今は小学生くらいの外見をしてる
相変わらず耳と尻尾は健在だけど


「サムばっかずるい!俺にもちょっとくらい残しとけや」

「もう食ってもうた、また今度な」

「ぐっ…なあ七歌、腹減った」

「はいはい、その前に仕事しよな」


二匹を諌めて妖がいたところに進めば、そこには封印札が一枚落ちていた
さっき治が食べたのは妖気
本体は札の中に封印されている
札を拾った直後、響と美嘉が隣に着地した


「もー、響また取り逃して」

「悪いって、怪我なかったか七歌」

「うん大丈夫」


札を二人に見せようとした時、背中に重さがのしかかってきた


「なあなあ、七歌」

「もっと暴れたい」

「腹減った!」

「お、重い!」


この二匹は人懐っこい上に悪戯っ子
響と美嘉はまたかと呆れた顔で二匹を見てる


「コラ、式神が主にそんな口をきくんやない」

「響に言われとうないわ」

「言われとうないな」

「ほんっとこいつら生意気やな」


侑と治は私の後ろに隠れるように立って響を威嚇してる
少しは神力が上がったため外見は成長してるものの、中身はあの頃のままな二匹は再び狐の姿に戻ってツーンとしている


「ところで七歌、明日の宿題やった?」

「あ、忘れてた」

「昼は普通の中学生として学校に通いつつ、夜は陰陽師として妖退治ってハードすぎやろ」


陰陽師は現代では陰の存在
表立って行動することが出来ないので私達はあくまで普通の中学生として生活している


「ほなまた明日な」

「またね、七歌」

「また明日」


二人と別れて帰路につく
妖が出た時は稲荷の人達が人払いをしてくれるため誰かに見られる心配もない


「帰ったらゲームしてええ?」

「お風呂入ってご飯食べてからね」

「やった!七歌大好き!」

「俺も好きやで!」


嬉しそうにはしゃいで私の周りをぴょんぴょん跳ねてる狐にも随分慣れてしまった
初めて出会った頃よりも二匹のことを信頼しているせいか基本的に侑と治は出しっぱなしだ

私の部屋の隣の部屋で二人仲良く生活してる
まるで弟が二人増えたみたいだなんて思ってしまったとある日の帰り道


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