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私の家は稲荷崎大社の近くの平屋
わりと大きいお屋敷というやつだと思う

由緒正しい家なせいか陰陽師たちもたまに出入りしてるけど、同い年の友達は美嘉と響だけ


「おかえりなさいませ、七歌お嬢様」

「ただいま」


お父さんの付き人兼陰陽師の弥彦さんに返事をして自室に戻る
やけに冷めた5歳児だとか言われたことあるけれど、昔から大人達に囲まれて友達とほとんど遊んだことのない子供はこんなふうに育つもんだと思ってる


「七歌ちゃん、ちょっと手伝ってくれんかのう」


扉を開けて話しかけてきたのはおばあちゃん
昔はかなりの神力の持ち主で陰陽師として強力な地位にいたらしい
おばあちゃんっ子な私は目を輝かせた


「うん、ええよ!」

「堪忍やで、この箱を離れにある蔵に戻してきてほしいんやけど」

「はーい」


おばあちゃんから正方形の箱を受け取り離れへ向かう
昔は離れにお化けが出ると聞かされて酷く怖がってたけど、陰陽師関連の道具やら何やらがあるから近づけないようにという計らいだったらしい


蔵を開ければ少し埃っぽくて「うわ」と声が出てしまった


「…どの辺りに置いてたらええんやろ」


ぽつりと呟いた独り言

のはずやったのに、蔵の奥からカタンっと音が聞こえた


「?」


これでも陰陽師見習いなため、妖を見たことある側からしたらお化けとかは全然怖くないんやけど、流石に何の音やと警戒してしまう

ゆっくりと音の方へ歩いていけば、そこには御札がいっぱい貼ってある手のひらサイズの箱がある


「(これ絶対触ったらあかんやつや)」


封印の呪術が施されているように見えた箱に回れ右をして立ち去ろうとしたのに、再びカタンと音が聞こえた

振り向けば箱が僅かに近くなってる気がする


「…生きてるん?」


何が封印されているんだろうか
少しの好奇心が邪魔をしてくる


カタカタと震えている箱に意識を集中すれば、僅かに話し声が聞こえてきた


「クスクス、やっと気がついたでサム」

「クスクス、やっと気がついたなツム」


どうやら一匹じゃないらしい


「こんな子供が晴明の生まれ変わりなん?」

「ちゃうで、晴明の神力をもろた巫女の生まれ変わりや」


何の話か分からないけれど箱の中から聞こえる話し声は妖のものらしい
封印されていることから多分厄介な相手
おばあちゃんに報告しようと一歩下がった


「逃げられへんよ」

「逃がさへんよ」


すかさずこちらに向かって飛びついてきた箱
足がもつれてしまって尻餅をついた私は、箱がぶつかる衝撃がしてぎゅっと目を閉じた

直後、眩い光に視界を奪われて次に目を開けた時には座り込む私の前に二匹の子狐がいた


「やっと出れた!」

「久々の外やな」

「何百年ぶりやろか」


仲良さそうにじゃれてる二匹
ああ、確か聞いたことがある

安倍晴明の神力を分けた巫女がいて、その巫女が使役した式の中に双子の妖狐がいたらしい

世間一般では金狐銀狐と呼ばれる二匹の狐
まさかそれが目の前にいるこの子狐?


「ん、なんや驚いた顔して」

「てかほんま子供やな」

「神力もこんなもんか、そら俺らも幼体のままなわけや」


普通に言葉を話してるけどこの二匹は狐なはず
まさか神力を使ってテレパシーでも飛ばしてるんじゃ


「アンタらは…妖?」


その問いかけに二匹は嬉しそうに笑った


「「せやで、主」」


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