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次の瞬間、弥生さんの姿は消え、代わりに妖落ちした晴明が立っている
私の傍には涙を浮べた二匹の…ううん、二人の大切な相棒達


「侑、治」

「七歌…?」

「生きて…」

「私と一緒に戦ってくれる?」


二人を抱きしめれば、何かを察した二人は頷き私を抱きしめ返した


「何故生きている?!」


叫ぶ安倍晴明に向かい合い、一つの札を取り出した
それは禁忌札ではなく、真っ白な何も書かれていないもの


「晴明、あなたを封印します」

「フフフフ、キミが?僕を?出来るものならやってみてよ!」


札に神力を貯めれば、侑と治も札に手をかざし神力を注ぐ
その光景を見た安倍晴明は顔色を変えた


「まさか…」

「あなたが生み出した術よ、晴明」


刹那、安倍晴明の足元に五芒星が浮かび上がる
五芒星は結界の力を有しており、その中心に閉じ込められた晴明はこの先の展開に焦っている様子


「やめろ!この安倍晴明を封印するのか?!」

「あなただからよ」


巫女の記憶の中で安倍晴明との記憶を一瞬だけ見たけれど、二人は幸せそうだった
これは巫女が望んだこと
私は巫女のためにやらないといけない


「それをやればお前も死ぬぞ!」

「そうね、でも世界は救える」

「大丈夫や晴明、俺らも一緒に行ったる」

「しゃあないから面倒見たるわ」


この術は自身の神力及び生命力と引き換えに対象を封印するもの
いつもの封印とは違い、永久的な効力を持ち、未来永劫封印が解かれることは無い

禁忌札は式の能力を上げるものに対して、これは確実に封印が可能だから最終奥義だけれど、晴明はその危険さに術そのものを封印していた


「待てや…そんなん、あかん…」

「お願い、やめて…」


苦しそうな声を発したのは響と美嘉
地面に横たわりながらも私の方へ這いずろうとしている

そんな二人に首を横に振る


「大丈夫、いつも見守ってるから」

「七歌っ!」


侑と治が私の方へ身体を寄せる
強まった神力に安倍晴明は叫び声をあげ始めた
五芒星の結界の中で浄化されているため妖にはかなり苦痛なはずだ


「もう少しやで晴明」

「せやから大人しゅうしてくれ」


二人の額にも汗が滲む
生命力を使用してるから仕方ないけれど、刻一刻と死に近づいているのを感じた

呼吸が浅くなる
胸が苦しい
全身の筋肉が悲鳴を上げている

不思議と怖くないのは二人がいるからだろう
かけがえのない私の相棒達


「なあ、七歌…もし生まれ変われたらまた会いに来てな」

「うん、絶対会いに行く」


弥生の時も今回も二人にちゃんと会いに行った
だから次もきっと私達は出会える


「俺らも次は人間になれたらええな…そしたら七歌と一緒に学校行って、部活したい」

「ふふ、いいね」


晴明は浄化されたようで五芒星は消えた
真っ白な札には複雑な印が刻まれている
二度と解けないよう厳重に施された印を見て私と二人は笑いあった

どんどん透けていく身体
生命力を使い果たした私達はこの世の理に従って地に還る
森羅万象、全ては繋がっている


「やだ…行かないで」


美嘉が涙を流すけれど、もうその涙を拭うことさえも出来ない
最期に見た幼馴染二人の顔は忘れない
さよなら大好きな親友達


さよなら大好きな世界


さよなら大好きな相棒達



そっと目を閉じた私の意識はそこで途切れた






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