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安倍晴明の話を聞いてこの状況を創り出したのが自分だと気がついた

幼い頃の無邪気な望み
それが世界を滅ぼすなんて思ってなかった


いや、違う


本気で滅べと何度も願っていた頃の自分を忘れていただけだ
陰陽師としての生まれながらのレールに沿って進むだけの人生
何ら面白みのない日々に色をつけたのは妖狐達

恐る恐る二匹の方を見れば、二匹もまた不安そうにこちらに目を向けていた

そんな二匹の隙を突いた晴明が二匹を式札に強制送還した
しかもそう簡単に出てこれないように複雑な術を練り込んである

と、同時に私の身体もぴくりとも動かなくなった


「ね、君の望みだよ七歌」


そうだ、私のせいだ
こんなに人が死んだのも街が崩壊してるのも世界が終わりそうなのも全部私のせいだ


「わ、私は…こんな」

「こんなつもりじゃなかった?」

「!」

「随分身勝手なお姫様だね」


晴明の手が私に伸ばされる
私にはこの手を拒む資格は無い

伸びてくる手に諦めかけた
その時、パンっと何かが弾ける音がして、目の前に黒い血飛沫が舞う


「誰に触ろうとしてんねん」


声の方を見れば、妖気のドームから抜け出した響がいた
その手は術を放った証拠の印が結ばれている

今の音の正体は響が放った術が晴明に命中したもの
現に晴明は左目から血を流している


「今日はよく邪魔が入るな」

「ならもう一つどうかしら」


地面から現れた何本かの鎖が晴明の身体を拘束する
そのおかげで術が解けた私の身体が地面に崩れ落ちる
そんな私の前に降り立ったのは美嘉

傷だらけでかなり神力も使い果たしているはずなのに私を護ろうとする響と美嘉に涙が零れ落ちた


「私のせいやから…護らんでいい」

「うっさい、俺は俺の護りたいもん護るんや」

「でも、私が」

「じゃあ駅前のパンケーキ奢ってくれたらチャラにしてあげる」


生まれた時からずっと三人一緒で、厳しい修行も常に三人で乗り越えてきた
そんな二人だから心のどこかで安心してたのかもしれない
何があっても二人は私の味方だって

けれど自分が元凶と知った時、二人を失ってしまうと思ってしまった
信じてなかったのは私の方だ
二人はいつだって私の傍にいてくれた

こんな簡単なことに気が付かないなんて私は大馬鹿者だ


「響」

「ん?」

「美嘉」

「なに?」

「ありがとう」


二人に微笑んだ瞬間、今度は二人の身体から血飛沫が舞った
何が起こったのか分からないまま返り血を浴びて、倒れた二人を見てからハッとする


「ああ…もういいや」


二人の身体の向こうでゆらりと揺れた影は晴明のもの
けれどその姿は先程までとは打って変わって禍々しいものになっている

頭から生えた二本の角
そして背中には骨で出来たような羽
皮膚は真っ白に変色しており、瞳は真っ赤に染まっている
人間離れしたその姿に妖落ちしたのだと悟る

妖落ちとは人間が悪魔に身も心も支配された状態のことで、こうなるともう元の人間には戻れない
妖怪として安倍晴明を祓う必要がある


「七歌、また来世で会おう」


晴明がそう告げたのを聞いてすぐに身体に衝撃が走った
ゆっくりと目を下に動かせば、そこには私の心臓を貫く一本の槍


「(駄目…響と美嘉を助けなきゃ)」


意識とは裏腹に世界は暗転した




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