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「晴明…あの子を頼んだわよ」


一回目の百鬼夜行が起こった時
愛する人と共に世界を救った

いつしか陰陽師として地位を作り上げた僕は最強の陰陽師、安倍晴明として祀られるようになり人々を救うため稲荷を作った

そしてあの日、百鬼夜行を止めるために巫女が命を落としたと聞いて、自分だけが生き残ってしまったのだと悟った

それが許せなくて、僕は寿命を代償に姿を変えた
時には風に、時には空に、時には海に

彼女が救った世界の移ろいを見守り続けた


けれど本当に彼女が救う価値があったのか不思議になった

争いは絶えず、金を持てば奪い合う
権力があれば他人を虐げる
強者が弱者を踏み台にする醜い世界

こんな世界のために巫女は死んだのか
そう思うと怒りでどうにかなりそうだった


何年こんな思いをしてきただろう
人間に対して嫌悪感しかなくなっていた


ある日、僕と巫女の子孫、土御門家に女の子が生まれた
その子を見て一目で巫女の生まれ変わりだと気がついた

名は七歌と言うらしい


すくすく成長するその姿を見てあの日の惨劇を思い起こした僕は巫女と七歌を重ねていた

幼い頃から土御門家本家の陰陽師として育てられた七歌は幼馴染二人以外の友達も出来ず、毎日退屈そうだった


そんな時、僕は七歌に話しかけてみることにした


「はじめまして」

「お兄さん誰?新しい陰陽師の人?」


丸い瞳で僕を見上げる七歌
年相応とは言い難い程しっかりした受け答え
跡取りとして躾られたのが伝わってくる
そんな七歌に肯定して、少しだけ話をした


「楽しくなさそうだね」

「…私はいい子でいないといけないから」

「誰が決めたの?」

「おじいちゃん」


跡取りとしての相応しい振る舞い
何度こういう形式に重きを置いた教えを見てきただろうか、本当に人間は愚かだと思う

こんな三つ程の年齢の子供に何を背負わせるつもりなのか


「キミはこの世界が好きかい?」

「…別に、なんにも思わない」

「そう」

「…でも


陰陽師とか跡取りとか何もかも無くなればいいのにって思う時はあるよ」


その言葉を聞いて決意した
七歌のために世界を壊そうと

そして今度こそ巫女が救うに相応しい世界を作ろうと

邪魔な奴らは消せばいい
そう願ったのは紛れもなく七歌


しかし、四歳の時、七歌と妖狐達が出会ってしまった
巫女に随分懐いていたあの二匹は七歌にも同じように懐いていた

あの二匹は時折、僕の存在にも気がついて威嚇してきたりと優秀な妖だった

だが、二匹のせいで七歌は世界を好きになり始めていた
今更世界を望んだってそんなことは許さない


そんなの都合が良すぎる


だから百鬼夜行を起こす事にした
そうすれば七歌はまた世界を憎んでくれる
人間を嫌いになってくれる
そうじゃないといけない、巫女が命をかけて護ったものがこんな世界だなんて認めない


これが僕の目的さ
ショックを受けている七歌の表情を見て綺麗だと思った

ああ、早く手に入れたい

僕の大切な人







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