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「今度はこっちの番だね」


晴明がそう告げれば妖気達が集まり、人の形を模した人形が現れた
その人形が響と美嘉を囲む


「僕が用があるのは七歌だけだから、少し退席してくれる?」

「響!美嘉!」


二人を助けようと侑と治をそれぞれの群れへ走らせる
けれどそれを制したのは雷牙と兎々


「金狐殿!主の傍を離れてはなりませぬ!」

「銀狐あなたもよ!響と美嘉には私達がついてる!」

「「雷牙、兎々!」」


みるみる内に人形は増え、いつの間にか響と美嘉
それぞれを覆うような妖気のドームが出来上がっていた


「フフ、何分持つかな」

「っ、二人を出して!」


晴明へ向け術を放てばいとも容易く弾かれる


「ほらほら、ちゃんと狙って」


この余裕が実力差を物語っていて、脳裏に禁忌札が過ぎる
けれど侑と治が諦めてない以上、私はこれは使わないと決めた


「侑、治」


武装解放をしている二匹
その二匹の頭を軽く撫でて晴明と向き合う

まだ一度も成功してないけどきっと大丈夫
二匹の勾玉に触れ目を閉じる

二匹の身体が光り輝き、二つの球状へと変化する
その球を掬えば私の身体にスウッと取り込まれる
突風が吹き荒れ、次に晴明が目を開けた時、そこには二匹と一体化した私の姿があった

巫女装束に狐の耳と尻尾、右目が金、左目が銀色となっているのは侑と治と一心同体になっている証拠だ
先程までとは異なる格好に晴明は目を丸くさせる


「あはっ、すごいすごい!ここまで出来るようになったんだね」


これは術者が式神の力を借りるというもの
本来は式神を憑依させるためのものだったらしいけれど、今となっては戦力拡大のための奥義
式憑きと呼ばれるこの奥義はかなりの神力を使用るためそう易々と使うことは出来ない

楽しそうな晴明に向け手を伸ばせば、多数の炎の玉が出現する
人差し指をクイッと動かせばその火の玉は晴明に向かって勢いよく飛んでゆく
避けようとした晴明だけれど、この火の玉は狙った獲物は逃さない


「あ、ヤバ」


避けきれなかった火の玉の雨が晴明に降り注ぐ
すかさず私は左手に纏わせた炎を晴明を取り囲むように渦巻かせた


「いたた、凄い力だね」

「ありがとう」


シャンと音を立て現れたのは扇子
一振するだけでかなりの風が巻き起こる
それを炎の中に閉じ込められている晴明に向けて放つ


『やったか?』

「いや、まだよ」


心の中で声をかけてきた治に返事をして晴明を見やれば、炎の中で皮膚が焼け、先程の鎌鼬で全身を深くえぐられながらもやっぱり笑っている

周囲に肉が焼ける臭いが立ち込めるせいで気分が悪くなる


「どんどん強くなるねキミは」

「私じゃない、私達よ」

「ふーん、巫女の時よりもよっぽど懐いてるようだ」


間合いを詰めてきた晴明、すぐに再生してしまうため致命傷を与えることが出来ない
私に触れようとするその手を振り払うように、伸びた狐の爪で引っ掻く

ツウッと晴明の頬を伝うその血は真っ黒
体内まで妖気まみれな証拠だ


「無駄だよ、何度やっても同じさ、百鬼夜行が続く限り妖怪が人間を襲い、生まれた不浄から妖気を吸い上げ続けることが出来る」

「じゃあ百鬼夜行を止めればいい」

「正気かい?今いる陰陽師達でも足止めを食らっているのに、人間が襲われる前に食い止めれるとでも?」


妖怪たちは人間を食らうために街を目指す
確かに足止め出来ているのは一部のみで、大多数は稲荷崎へ向けて移動している


「稲荷の陰陽師なら妖怪を駆逐するに違いない」

「ふはは!出来ると本気で思っているのかい?!」

「思ってる」


即答した私を信じられないというような表情で見つめる晴明に今度は私が不敵に微笑んだ


「陰陽師を舐めないで」






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