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稲荷山に辿り着いた時、その状況は凄まじいものとなっていた

蠢く妖の群れと戦う陰陽師達に領主達
百鬼夜行というだけあって妖怪側が圧倒的に数が多い


「七歌様!」


駆けてきたのはうちの使用人も兼任してる弥彦さん
傷だらけで所々血が滲んでいる


「全陰陽師を召喚し、封印を取り計らっております、現在の浄化率は約二割です」

「分かりました、引き続き浄化に務めて下さい」

「はっ!」


弥彦さんが伝令という術を使用して全陰陽師に通達を行う
これは中々神力を使うため使用できる人は限られている

弥彦さん達が戦う中、ゆっくりと目を閉じる

妖の群れの中で一際強い妖気が感じられる場所
そこが晴明の居場所


「…いた」


稲荷山にある小さな社
そこは確か領主達の総会場所になっている場所
狙いは三大王か

急いで社に向かう私の両隣を走っていた響と美嘉
前には各々の式がいる


「先に言っとく、俺らを犠牲にしてでも晴明を止めろ、ええな七歌」

「そんな事できな」

「七歌、私達はあなた一人に背負わせるわけにはいかないの

だって幼馴染でしょう?」


困ったように微笑む美嘉に言葉が詰まった
その目は強い光が灯っていて、私は歯を食いしばった
この戦いに命をかけてまで挑んでいるのは私だけじゃない
響も美嘉も、そして陰陽師の皆も
誰もが世界を、未来を救うために戦ってる

しばらく走っただろうか、急に視界が開けた
そこには小さな社がポツンと佇んでいてこんな野原に不釣り合いな光景

それより、その社の前で三大王達が横たわっており、その中の玉藻前を踏みつけている男に目がいく


「なんやババア、殺られたんか」

「まだ死んではおらん」


玉藻前と男の間に割って入った侑と治
男は飛び退き距離を取る
けれど、その目がこちらを捉えた途端その顔が明るくなった


「久しぶりだね、七歌!」

「安倍晴明…っ」

「会いたかったよ」


誰のものかも分からない返り血を浴びてにっこりと微笑むその姿は異様以外の何物でもない


「ここに来たということは答えは出たのかな?」

「答えなんて初めから決まってる、お断りよ」

「残念」


世界をリセットする?
そんな事させない
未来を待ち望んでいる人がいるんだ


「じゃあ無理矢理連れてくことにするよ」


いつの間にか目の前に迫ってきていた晴明
その手が私を掴む前に鋭い稲妻が走った


「勝手に外野にすんなや」


印を結んだ響が晴明へキッと目を向ける
晴明も弾かれた手をキョトンときた表情で眺めてから響へ目を向ける


「祖先は大事にしろって習わなかったかい?」

「悪いけど俺の祖先にお前みたいなロリコン野郎おらんねん」


晴明のターゲットが響に変わる
しかし響に触れる前に雷牙が阻止した


「いい式だね」

「俺の自慢の相棒や」


雷牙と響のコンビネーションを持ってしても晴明は軽々と避けていく
けれど、その隙を逃さなかった


「武装解放!」


雷牙に気を取られている晴明の背後をとったのは兎々
すぐさま反応する晴明だけれど、兎々の速さはそれをも上回った


「今よ兎々!」

「雷牙!」


二人の神力が上がり、式たちが晴明に攻撃を行う
そんな迫り来る二体の本気を余裕そうな表情で眺めている晴明

刹那、攻撃を避ける晴明のコトを予期していたかのように妖狐がニンマリと笑った


「お見通しなんはお前だけちゃうで」

「っ?!」


雷牙と兎々の猛攻により、一瞬だけ反応が遅れた晴明の右腕と左足を噛みちぎった侑と治
宙を舞う血飛沫

その中で晴明は不気味に笑みを浮かべた


「いいね、ゾクゾクするよ」


腕と足を失ったとは思えない程恍惚な表情のその姿に怯んだ
晴明が腕を一振りすれば妖気が集まり、それが失った腕と足を補うかのように身体へ結合する


「くそ…そんなのありかよ」


悔しそうな響の声が届く
三人と四匹がかりでもぎ取ったチャンスがたった一瞬で消えてしまったんだから仕方ない

この圧倒的な実力差が安倍晴明を物語っている

陰陽師最強の男は新しい手足を確認してから、変わらぬ笑みをうかべた





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