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安倍晴明と初めて会ってから一年が経過した

領主の妖は百体程いたのが、今や半数ほどまで減ってしまっていた
それでもまだ半数で食い止められているのは陰陽師と妖が協力して安倍晴明と百鬼夜行を阻止しようとしているからだ


教室に現れてから安倍晴明とは会っていない
それが嵐の前の静けさのようで気持ち悪い

けれどこの間に何もしないわけにもいかないので、できる限りの術を覚え、神力も高めた

生きるための武器は揃えた


「土御門、英語の課題やった?」

「うん、今日当たるかもしれないから」


出席番号の兼ね合いで今日は当てられ放題かもしれないと角名くんに笑いかけたら、彼もまた笑い返してくれた


「お、角名はよ!」

「おはよ響、お前は課題やってないだろ」

「ゲッ、忘れてた!」


しまった!と顔をしかめた響
そんな響の後ろには呆れたようにため息をつく美嘉


「もう、響!アンタはいつになったらしっかりするのよ!」

「美嘉頼む!見せてくれ!」

「嫌よ」

「なんやねん、ケチくさいなー」

「何ですって?!」


いつもと変わらない光景に、世界の危機が迫っていることを忘れそうになる
このまま平和な時間が続けばいいのに
そう願ってしまう度に現実を思い知る


「そう言えば角名明後日試合なんやって?」

「そう、IH出場をかけた一戦」

「まじか、応援行く!な、七歌」

「うん、美嘉と三人で応援する!」


角名くんにそう返して、他愛ない話で盛り上がる


何気ない日常、でも私の嫌な予感は的中してしまったようで、突然地響きが鳴り渡った
あちこちで上がる悲鳴にハッとする

窓の外の景色は朝見たものとは打って変わって、悲惨なものだった


「なに、あれ」

「街が…」


ざわつく生徒達
それもそうだ、ビルは倒壊し地面は盛り上がり空は紫色に染まっている

まるでどこかの本で読んだかのような世界にこの時が来たんだと悟る


「行かなきゃ…」

「待って」


立ち上がった私の腕を掴んだのは角名くん


「土御門が何をしてるのかなんて俺には分からないけど…行かないと駄目なの?」


その手をやんわりと解き、首を横に振った


「角名くん、私達行かなきゃ」


響と美嘉も覚悟は決まってたようで頷く


「あなたの未来は私達が護るから」


その為に私達がいる
陰陽師は妖から人間を助けるのが仕事

響と美嘉と三人で教室を飛び出し、向かった先は屋上
そこから空を見渡せば稲荷山の頂上に黒いモヤの様なものが見える


「おいおい…まさか」

「嘘でしょ」


その時、ポンッと姿を現した侑と治
二匹はモヤへ目を向けて少し目を伏せた


「晴明のやつやりおったな」

「百鬼夜行や」


モヤは無数の妖が群れを成している証拠
神力が強い稲荷の地に集まるのは妖の習性だから仕方ない


「行こう」


あの場所に安倍晴明がいる
そう思うと鼓動が早くなる

逃げない、逃げられない
戦いはもう目の前






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