22/32
禁忌札を受け取った七歌を見て何も言えなかった
侑も治も猛反対していたけど、それも制して七歌は札を受け取った
同じ土御門の人間でも俺と七歌には大きな差がある
背負っているものが違いすぎる
「主、何か悩みでも?」
部屋で先程の事を思い起こしていた俺を怪訝に思ったのか、雷牙が姿を現した
いつもよりサイズを抑えて出てくる辺り賢い狼だと思う
「なあ、雷牙…お前は安倍晴明のやろうとしてることをどう思う?」
「…確かに人間は些か身勝手な部分があります、しかしだからといって命を奪っていい理由にはなりません」
「…うん、そうやんな」
自分に言い聞かせるように言葉を発する俺を見つめる雷牙
どう見えてるのか気になるものの目をそらした
「よし、雷牙ちょっと特訓しよか」
「承知!」
俺には七歌ほど神力も無いし、いざと言う時の決断力もない
けれどこれだけははっきりと言える
七歌に死んで欲しくない
その為に俺に何が出来るのか
−−−−
−−−
土師の家に帰ってから一息つく、そして先程の会話を思い出して頭を抱えた
あの安倍晴明の力を前に私たちは無力だった
でも稲荷の陰陽師である以上、百鬼夜行は阻止する必要がある
だからって七歌の命と引き換えなんて納得出来ない
でも、もし、その時が来て七歌が望んだなら?
「また難しい顔をしているのね」
「兎々…私はどうすればいいのかしら」
「さあ?そんなの私に分かるわけがないでしょう」
冷たく一蹴されてしまい益々悩みが深まった時に兎々が私の膝に飛び乗ってきた
「美嘉、私はあなたの式よ」
「ええ」
「あなたの命ずる事なら何だってやってあげるわ、けれど七歌を護るのはあの狐達の仕事
たとえあなたの命でも私は美嘉の命を優先する」
「なに、追い討ちかしら?」
トドメを刺しにくる兎々にため息を吐くと、ダンっと足踏みをされた
兎特有のアレだ、とても痛い
「どうしたいかはあなたが決めるのよ、美嘉」
「…そう、ね」
考えろ、七歌を護るために私に何が出来る?
救いたいなら脳を回せ
−−−−
−−−
「侑、治、ご飯食べよ」
「「いらん」」
先程、禁忌札を貰ってから二匹はずっとこの調子
よっぽど嫌だったんだろうけど私も譲れないものがある
「…七歌は俺らの事何も分かってへん」
「侑」
「俺らは七歌を護りたいだけやのに」
「治」
背中を向けているため表情は分からないけど二匹が怒っているのは伝わった
多分巫女の時のことを思い出してるんだろう
「私、百鬼夜行を止める為なら何でもするよ」
「っ、だからそれが!」
「でも侑と治がそんなに嫌がるなら他の方法も考える」
私だって死にたい訳じゃない
むしろ生きたい、もっとこの二匹と一緒にいたい
「私ね、世界が滅んじゃうことより侑と治とおられへんなる方が嫌やねん」
「…七歌」
「私はあなた達のことが大好きなんよ、だから一緒に生きたい、その為にも百鬼夜行を起こしたくない」
「そんなん俺らも一緒や、七歌のこと好きやで、これからもずっと一緒におりたい」
ポロポロと涙を流す二匹が私の元へ駆け寄ってくる
私より何百年も長く生きてても子供のように見えてしまうのが何だか可笑しくて少し微笑む
この二匹のためにどれだけのことが出来るかなんて分からないけど、二匹のためなら何でもできる
そんな気がした
back