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仮面の男と遭遇してからというもの、妖との遭遇率が高まっている気がする

昨日は立て続けに二体出たし、一昨日なんて深夜に出るから叩き起されたっけ


「七歌大丈夫か?」

「ちょっと無理やわ…」


完全にこの事件の黒幕
つまり百鬼夜行を成そうとしている人物であることは間違いないんだけど誰なのか見当もつかない
これでも土御門の次期当主として稲荷の陰陽師達の顔は一通り覚えてる自信はある

けれど誰の顔でもないあの男は一体


「ばあちゃん、七歌元気ないんやけど」


私のおばあちゃんに話しかけた侑
おばあちゃんは昔からずっと優しかったから大好きだけれど、おじいちゃんは稲荷の現当主として接してきたから変に緊張してしまう
その為か他人行儀に祖父と言ってしまう

勿論本人にはおじいちゃんと呼んでるけど、どこか萎縮してしまうのはこの陰陽界では仕方ないのかもしれない


「ここ数日ずっと神力使っとるからなあ」

「それもこれもアイツのせいか…」

「やっぱあん時アイツ食い殺しとけばよかった」

「やめい、物騒な!」

「痛!!」


ぺしん!と叩かれて騒いでる侑
その隣でコタツに入って温もりながらミカンをもぐもぐと食べてる治

今更だけれど、二匹とも人型でいる時は完全体
高校生というか、大学生と言ってもいいほどの高身長イケメンに成長している


「七歌、ちと休み」

「うん、そうする」


ふらふらとした足取りで自室に戻ればテテテと追いかけてきたのは治

ポンッと音を立てて狐に戻った治は私を見上げて尻尾をゆらゆらさせている
これは構ってほしい時の合図だ


「なに、治も一緒に寝る?」

「寝る!」


少し布団を持ち上げればヒョイっと潜り込み、何周か回ってストンと丸く収まった治
もふもふの毛並みと体温が気持ちいい


「七歌、おやすみ」

「ん、おやすみ治」






−−−−
−−−




「おーい、サムどこ行っ…て、せこ」


七歌の部屋を覗けば布団にくるまって寝てる七歌とサムの姿
多分寝た時は狐の姿やったんやろうけど、今は人型で寝とるサム
傍から見ればカップルにも見えんことのない光景に少しイラッとしつつもサムを叩き起す


「んー…なんや、ツム」

「お前何抜け駆けしとんねん」

「はあ?…ああ、これか、羨ましいやろ?」

「喧しい、はよ布団から出ろや」


七歌は主
それ以上でもそれ以下でもない
けれど誰かに取られんのは許されへん
それはきっとサムも同じなんやろう

布団から出てきたサムと二人で七歌の寝顔を見つめる
昔から変わらん寝顔に少し微笑んだ

そのまま七歌を起こさずに部屋を出て狐の姿になってから屋根に上がる
隣に腰を下ろしたサムは少し思いつめたような顔をしとった


「…なあ、気づいとる?」

「おん、アイツや」


あの仮面の男
見た目こそ変われど中身はアイツで間違いない

何で今になってこんな形で七歌に接触を図ってきたのかは分からんけど、一つだけ言えるんはアイツが敵やってことや


「俺昔からアイツ嫌いやったし丁度ええわ」

「同感、うっかり食い殺しても文句言われんやろ」

「とりあえず来月の総会で報告だけしとこか」

「そやな」


内通者は間違いなくあの男
百鬼夜行を目論む黒幕に対しては、陰陽師に紛れ込んで妖の手を引くなんて趣味の悪い奴や思とったけど、アイツが噛んでるなら納得がいく

長い間生きてきたけど俺が見てきた中で一番得体の知れんかった奴と何百年越しに再会するなんて運命は不思議なもんやで、ほんまに



なあ?

お前の目的は何や





安倍晴明




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