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百鬼夜行を目論む内通者がいる
そう七歌が宣言した時、思い当たる人物が何人か出てきた

そのリストを眺めながらコーヒーを飲む


「何してるの、美嘉」

「内通者探しよ」


私の膝に飛び乗ってきたのは式神の兎々
名の通り兎の妖で、月の光を浴びて妖力を増すと言われている
その赤い目でリストを眺めてから興味無さそうに机に飛び乗った


「こら、行儀が悪いわよ」

「あら、失礼」


机の上のお菓子をくわえてぴょーんと再び跳んだ兎々
その様子に呆れながら私もお菓子を口に入れた


「さて、どうしようかしら」


このままだと百鬼夜行は起こる
その前に食い止めなければ七歌の命が危ない


「させない…」


私の大切な幼馴染
それに初めての友達
そんな七歌を失うなんて絶対に嫌だ


「美嘉様、随分とお悩みのようですね」


声をかけてきたのは私の身の回りの世話をしてくれている家政婦さん
残り少なくなったコーヒーを継ぎ足してくれた


「ありがとう、集中すると周りが見えなくなるのが悪い癖ね」

「あら、その分私がおりますのでお気になさらず」

「ダメよ、陰陽師として直さないと」


気を抜けば命を落とすかもしれないのが戦い
妖は私達を本気で喰らいにきている
一寸先は闇とはこういうことなのかもしれない
死と隣合わせで生きてきたせいかたまに油断してしまう時がある
響にも一度咎められたっけ


「百鬼夜行、本当に起こるのでしょうか」


不安げに瞳を揺らす家政婦さんに微笑んで見せた


「食い止めてみせるわ」





−−−−
−−−



翌日、学校へ行けば響と角名くんが仲良さそうに会話しているのが目に入った
角名くんはバレー部に所属しているらしい
しかもいつの間にか七歌と仲良くなってる


「はよ、美嘉」

「おはよう響、それに角名くんも」

「おはよ」


角名くんは一般人
でも何かに気がついている節がある
多分七歌が巻き込んだんだろうけれど、特に害は無さそうだし、何故か侑と治まで角名くんには懐いているようで放っておくことにした


それよりもだ


七歌と角名くんをじっと見ている男子生徒が一人、廊下からこちらを覗くその瞳は妖に取り憑かれてると一発で分かった


『兎々』

「はあい」


印を結んで兎々を召喚すれば、小さな兎が姿を現した
七歌と響は気がついていないみたい


『あの廊下の子、取り憑かれてるみたいなの』

「本当、あれはもうダメね」


かなり奥深くまで妖に心を食われている
上手く妖気を隠しているつもりだろうけれど兎々と私はかなり鼻がいい
悪巧みをする妖は臭うのだ


「で、どうしたらいいの?」

『分かってるでしょ』

「分かってるわよ、私が聞いてるのはどこまで殺ってもいいかよ」

『人間ごと』


ごめんね、私は二人みたいに優しくないの
必要があれば人も殺める
だってそうしないと七歌が死んでしまうから

私にとって七歌は存在意義なの
響も勿論大切な友達
二人を守るためなら何だってする


『二人に勘づかれないようにね』

「了解」


影に身を潜めた兎々が自分の影にその生徒を引きずり込むのが見えた
払えないほど心を喰われた人間が行き着く先は破滅
妖が意思を握ったただの器になる

そうなると私達にも払うことが出来なくなる
そんな人間を咎人と呼ぶ
咎人は陰陽師にとって制圧対象
つまり殺しても良い相手


兎々が引きずり込んだ彼は食べられてしまっただろうか
七歌のことを追いかけ回してたストーカーだったからそこを不浄に付け込まれたに違いない


「ごめんね」


その謝罪は誰のためか
呟いた言葉は宙に消えた





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