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真っ黒な空
枯れた大地


「侑、泣いちゃダメ」


俺の腕の中で浅い息を繰り返す主
いつも自信ありげで俺らの事を叱る生意気な主
だが今はボロボロの身体で血を流し今にも死んでしまいそうや


「泣い…てないわ」

「…ふふ…ほん、と…意地っ張りね」


何が起きたのか
意識が無くなって目を覚ました時には主はこの状態やった

相棒のサムもただ呆然と横で膝をついて主を見つめてる


「っ、晴明は…晴明はどこや?!」


最強の陰陽師
そしてこいつの旦那なら助けれるんとちゃうか
そう思って周りにいた陰陽師に問いかける

だが生きてその場にいるのは俺らだけ
他は妖との戦いで亡骸を横たえてる


「ツム、晴明はもう…」

「っ」


サムの言う通り晴明の神力が感じられへん
つまりアイツも死んだってことや
人間はほんま脆い
たかが数十年しか生きられへんのに未来を繋ごうと躍起になる


「治…怪我…してない?」

「俺のことはええから!もう喋るな!」


巫女は腹を深く抉られとる
その傷跡はまるで獣に裂かれたようで
まさかと勘ぐる


「いつか、また会えるから」


最期にそう言い残してゆっくりと目を閉じた主
神力が弱まるのを感じて腕に力をこめた


「「主!」」


その瞼が開くことは無かった
何日そこで泣いていたのか、今では思い出せない
巫女の救った世界はすぐに復活し、みるみる内に文明が栄えた
人間は図太いんやとも思った

傍観者でいることを決め、それから数百年は人の世を見守った
そんな時に稲荷の地
よりによって巫女が亡くなったあの土地の領主に任命された


「なあサム、またっていつやろな」

「さあな、人間は約束守らんからな」


稲荷山の社から街を見守る
いつの時代も人間は争いを止めない
愚かな行為だと気が付かず私利私欲のために争う

ある時そんな人間に嫌気が差し、お灸を据えるためにサムと暴れてやった


けれどそれは失敗した


「伝説の妖狐がなぜこのような」


晴明と巫女の子孫は土御門という名で生き残ってたらしい
暴れる俺らはまんまと捕獲された
久しぶりに会った陰陽師に少し胸が高鳴る
巫女の子孫やからか懐かしくも感じた

せやけど友好的なんは俺らだけやった


「巫女様の命を奪った妖狐め」

「え…」

「俺らが…?」


陰陽師たちは口を揃えて俺らが巫女の神力を糧にしたためアイツが死んだのだと教えてくれた
俺とサムは陰陽師達に封印された
巫女殺しの犯人として
そして何百年も封印され続けた

それでも人間を憎めへんかったのは多分巫女のせいや
アイツが俺らに人間の面白さを教えてくれたからどうしても嫌いになんてなれんかった


「いつか俺らの封印を解く奴がおるんやろか」

「そしたらそれが次の主やな」

「ええんか?巫女の生まれ代わりとは限らんで」

「いいや、必ずアイツは来る…また会えるって言うたやん」


途方もなく長い時間をそこで暮らした俺らの妖力は尽きかけていて、流石にまずいと思ったある日
久しぶりにその神力を感じた

主に似た…いや、主そのものの神力が産み落とされたのを感じた


「気がついたかサム」

「気がついたでツム」


妖力を失いかけていた俺らは幼体になってしまってた
それでも感じたこの神力は間違いなくアイツや

それから何年か経った時、俺らが封印されてる蔵にソイツはやって来た
この日を何百年待ったやろうか


「アンタらは…妖?」


主とは似ても似つかんほど弱い神力
それでもその素質は間違いなく巫女と遜色ない


「「せやで、主」」


それが七歌との出会い
そして俺らが巫女と再会した時のことや






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