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定期的にある陰陽総会では先日の校内へ入ってきた妖の件が議題に上がっていた
角名くんに見られたと言うのは勿論内緒だけれど


「して、その下級な妖が何故結界を破れる?」

「それが調べた結果、封印の一箇所にこんなものがあった」


響が出してきたのは一本の折れた矢
妖力がこめられたそれにザワつく陰陽師達


「まさかこれは」

「印が仕込まれているだと…」


そう、その矢には結界を解く印が仕込まれていた
それも巧妙な印で、美嘉ですら解読に困難を極めていた


「静粛に」


陰陽師の長である祖父が口を開いた
ピリッとした空気が漂う


「七歌」

「はい」


名を呼ばれ祖父の前に正座すると、祖父は私の前に矢を置いた


「お主はこれをどう見る」


祖父から矢に目を向け、もう一度祖父へ戻す
この場所で私に発言を求めてきた以上半端な答えは許されない


「内通者がいるかと」


こんな巧妙な印は妖には結べない
出来るのは力のある陰陽師
これが結界に刺さっていたという事はわざわざ誰かが妖を招き入れたという事

私の一言に再びどよめきが広がる


「何という事を」

「裏切り者がいるだなんて」

「七歌、お主は土御門の本家の人間、その発言が如何程の重みなのか理解しての発言じゃな?」


祖父から目を逸らさずに頷く
誰が何のためになんて分からない
けれど私がいる稲荷崎高校に妖を招き入れる程の悪意を持った人間がいる
これを野放しにはできない


「良い、ならばこの場にいる全陰陽師に告ぐ

妖と手を組み百鬼夜行を企てる愚か者を探し出せ」


祖父がそう告げると陰陽師達が頭を下げた
長の命は絶対
裏切り者が紛れているかもしれないこの場でこの決断は炙り出すための罠だ

敢えて気がついていることを明かすことで相手に警戒心を抱かせる
警戒心は持続しない、そうすれば必ずボロが出る

そこを突く





−−−−
−−−



「なあ、七歌さっきの大丈夫なん?」


自室へ戻る最中、隣を歩いていた侑が心配そうに顔を覗いてきた


「大丈夫じゃないやろな、完全に宣戦布告してしもたもん」

「わろとる場合か」

「多分内通者は百鬼夜行を起こそうとしてる」


その言葉を聞いて侑の顔色が変わった
何かを思い出したのか少し動揺しているようにも見える


「アレが…また…」


侑が私の肩を掴み足を止めた
その眼差しに映っているのは私ではない
巫女だ


「侑、落ち着いて」

「あ…スマン…俺…」

「侑」


侑の頬に手を添えればビクッと肩を揺らした


「百鬼夜行を止めた巫女の命を奪ったのは貴方じゃない」


言い伝えでは巫女の力を食らった妖狐が妖を撃退したと言われているけれど、どこまでが本当かなんて分からない
それに二匹の巫女の最期に関する記憶は消されている


「今度は俺が…七歌を」

「ツム!」


どこからともなく現れた治が侑の腕を掴んだ
侑は治を視界に入れて少し落ち着いたみたいだ


「ツム、大丈夫や、あの時とはちゃう」

「サム…」

「七歌、ツム連れて部屋戻るわ」


部屋に向かって歩いていく二匹
その後ろ姿はあまりにも小さく見えて
出会ったばかりの二匹を彷彿とさせた

あの二匹は何百年も生きている
それなのにまるで子供のように見えた

二匹は存外強くないのかもしれない

私が守らないと

そう思った




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