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普段は一般人には姿は見えないのだけれど、今は角名くんの腕を掴んでいるためそこから神力が漏れ出して角名くんにも伝わってしまっている

そのため二匹の姿が見えてぽかんとしている角名くんの手を離さずに印を結ぶ
手を離さないのは妖は一般人を狙うからだ
傍にいれば守れる
一般人の前で術を使うのは初めてだからどうなるか分からないけれど、校内に妖がいる以上やるしかない


『オマエ、ウマソウ』

「残念やなあ、食われるんはお前や」

「今日こそは俺の番やぞサム」

「お前ディフェンス専門やんけ」

「はあ?!オフェンスも出来ますけど!」

「黙って防御壁張っとれやクソツム!」


喧嘩を始めた二匹を見ていた角名くんが「なんか喧嘩してるみたいだけど…」と呆れたように私に告げる
私もそれに頭を抱えつつも妖を見据える

力はあまり強くなさそうだけれど、校内に入ってきたんだから油断はできない


「侑、結界を張って」

「了解ィ!」

「治は妖を封じ込めて…但し生け捕りで」

「了解」


角名くんの姿をじいっと見つめてから私たちの周りに結界を張った侑
治は妖と向き合って牙を剥いている


『ドウホウノクセニ』

「お前と俺らを一緒にすんな」

『カイナラサレタキツネゴトキガ』


妖気が膨らむ妖に違和感を感じた
見るからに下級なのに何故こんな所にまで入り込めたのか
そしてこの妖気は上級の妖に匹敵するもの
何故こんなにも妖気を蓄えているのか


「我土御門の名において妖狐を以て悪しき不浄を滅す、武装解放 式 急急如律令」


侑と治の首の勾玉には術式が組まれている
式神は付き従う条件に力を得る
それが武装解放
二匹の身体は二倍ほど巨大化し、牙も鋭く光る
そして二匹の周囲には人玉のような炎が現れる

二匹の武装は炎


「すっげえ…」

「驚くんはここからや」


侑がそう告げた途端、治が妖の背後に回った
正しくは影を使ってテレポートしたようなイメージだ


『ナッ』

「遅」

『ギャアアア』


冷ややかな目で妖に噛み付いた治
妖は腕を噛みちぎられたせいで苦しんでいる様子
すかさず治は炎を妖に向かって放った
燃え盛る身体に悲鳴をあげる妖

侑の名を呼べば嬉しそうに妖に駆けていく


「いただきます」


口を開けた侑に吸い込まれるように妖気が吸収されてゆく、残った本体に向かって札を投げた


「不浄封印」


術を唱えて妖を封印札に閉じ込めればいつもの図書室が戻ってきた
侑と治の武装を解除して角名くんから手を離せば急に二匹が見えなくなったのかキョロキョロしている


「ごめんね、巻き込んで」

「いや…それよりお前いつもあんなんと戦ってんの?」

「それが仕事やから」


侑と治の頭を撫でれば二匹は嬉しそうに擦り寄ってくる
尻尾を振ってるからご機嫌なんだと伝わってくる


「陰陽師って本当にいたんだ」

「角名くん、今日のことは誰にも言ったらアカンよ」

「分かってる、言わない」

「ありがとう」


もしも角名くんが口を滑らすことがあればこの記憶を封印しないといけない
これが中々大変で前後の記憶に異変がないようにつなぐ必要があるため少し労力を使う


「けど一つだけお願いがあるんだけど」

「なに?」

「二匹触っていい?」


突然の事に驚く二匹
ギョッとして私の横で角名くんを見上げている

私はそんな二匹がおかしくて角名くんと手を繋いだ
神力が伝わり二匹の姿を捉えた角名くんの瞳が少し輝いた


「こっちの金色の方が侑、銀色の方は治」

「双子なんだ?」

「そう、とってもええ子なんよ」


褒められて嬉しいのか尻尾がユラユラしてる二匹は角名くんの撫でを大人しく受けてた
時折耳がぴょこぴょこしてるのは初めて一般人に触れられたからドキドキしてるんだろう


「守ってくれてありがとう」

「ええよ」

「七歌の友達やもん」

「土御門の事本当に好きなんだね」

「「大好きやで!」」


口を揃えて言う二匹に微笑んだ私はもう少しでここにやって来るであろう幼馴染二人にどう言い訳をするか考えを巡らせた




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