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中学三年生
受験という人生で1番最初にやってくる壁にぶち当たっている私、土御門七歌
陰陽師としてはそこそこ力があっても、女子中学生としては並の学力
美嘉はかなり学力が高く心配はいらないし、響はやらないだけでやればかなりポテンシャルが高い
二人に遅れるわけにはいかないと、稲荷崎高校に行くため躍起になっていると、私の手元を覗き込む影が一つ
「なんや七歌、ここ間違えとるで」
去年より少し成長した治が後ろから私の課題を覗き込んでいた
小学生やった外見から二人とも中学生くらいまで成長してて、狐の時はそうでもないけど人型になれば私の身長を抜く程大きくなった
「治分かるん?」
「まあ何百年も生きとるし」
「ここってどう解いたらいいか分かる?」
「あー…ここはこれを代入して」
スラスラと答えていく治の姿は初めて見るもので、あの無邪気に駆け回っていた頃を知る私からしたら感慨深い
私がぽかんとしている事に気がついた治が「聞いてるんか」と宥めてきたので意識を戻す
「…ってとこやけど、出来るか」
「やってみる」
治に習ったように解いてみると面白いほどスラスラと解けた
成長して余計にだけどこの妖狐はかなり顔がいい
本当に人間だったらかなりモテただろう
頭も良くて顔もいいだなんて、何とも贅沢な妖だ
「サムー、焼き芋買うてきたでー」
襖を開けて入ってきた侑
耳と尻尾を隠して人間に化けてたまにぶらぶらしてる、今日は焼き芋を買ってきたらしい
「でかしたツム」
「ちゃんとお金払ってきたんやろうね」
「当たり前や、葉っぱを金に変化させるなんてせんわ」
「何百年か前にやってむっちゃ怒られたもんなあ」
「いらんこと言うなやアホサム!」
やいのやいの喧嘩し始めた二匹
いつの間にかこの光景にも随分と慣れたものだ
私の神力が強まるに従って成長する二匹
多分もう少しで完全体と呼ばれるサイズまで成長するんだろうけど、この二匹が妖の中でもかなり上位に属しているなんて未だ信じ難い
土御門本家の跡取りとして育てられた私と分家の響、そして土師家の美嘉
私たち三人は陰陽師の中でも神力がかなり高いことから今ではそれなりに決定権を貰っている
多分この二匹も似たような境遇なんだろう
見た目とは違い大きなものを背負っているに違いない
「侑」
「お?」
「治」
「ん?」
二匹を呼べば食べるのを辞めて即座に振り向く
よく懐いてくれた二匹の頭を撫でれば、嬉しそうに目を細めている
「どしたん、なんか嫌なことあったん?」
「何もないよ」
なにかに勘づいたのか私をじいっと見据える二匹
伝説の妖狐だってことを忘れてしまいそうだ
「焼き芋私もちょっと頂戴」
侑は「ええー」とか声を漏らしてたけど、治は私の顔を見つめたまま黙ってた
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