29


中学に入って1年が経とうとしてるとある日


「え、涼香が?」

「ごめんね、体調管理しっかりさせんとあかんのに」


困ったようにため息をついたのは涼香のおばちゃん
今日はサムが日直かなんかで先に行ってしまったため、涼香と二人で登校する予定やったのに来てみて告げられたのは風邪の二文字


「ほんなら今日は1日寝込んでるん?」

「そうなんよ、今日は私も旦那も遅いし一人にさせてまうから心配で…」


そこまで言うてからおばちゃんが閃いたと言わんばかりに俺を見た


「悪いねんけど侑くん帰りにでも様子見たってくれへん?」

「え」

「これスペアキーやから渡しとくね、頼むわ」

「ちょ待っ」


有無を言わせずスペアキーを渡されてしまう
昔から一緒やし信頼されてるんやろうけど、娘が風邪で寝込んでる家に中学男子を上げるなんて普通にアカンと思う

とはいえ、頼まれた以上断る訳にもいかんので、授業が終わってから栄養ドリンクやら身体に良さ気な食べ物を買って涼香の家に向かう
勿論サムには内緒や


「お、お邪魔しますー」


家に踏み入れると昔から見慣れた玄関や廊下が目に入った
昔ここで隠れ鬼とかしたなあと思いつつ、とりあえず二階にある涼香の部屋に向かう

ドアの前で深呼吸をしてからソッと扉を開けると、昔より幾分か女の子らしくなった部屋が見えた

その片隅にあるベッドですやすやと眠ってる涼香の姿に少しだけ安心した


「(よかった、思ったよりも元気そうや)」


うなされたりしてたら多分オロオロしてたんやろうな俺
いつも俺が風邪ひいたときはオカンかサムが面倒見てくれるし、サムの時はオカンが見てる
俺も心配やけど何してええか分からへんので、結局そわそわしてるだけや

せやから今日も正直戸惑った
何をすればええんかとかそんなん全然わからんくて、でも涼香の寝顔見て守ったらなアカンという気持ちになる


「…俺が誰かの面倒見るなんてお前くらいやでホンマ」


眠ったままの涼香の前髪に触れれば、ほんのりと熱が伝わってくる
普段はしっかり者やのに、やっぱり女の子なんやなと実感した

そしてそれと同時にこみ上げてくる好きやという感情


「(お前が好きや)」


口にしてしまえれば楽なんやろうけど、今の関係を崩したくないのと拒絶が怖くて踏み切れん
もう少しだけこのままの関係でおりたい

そっと目を閉じた



−−−−
−−−



「侑くんごめんやでー、ありが…あら、寝てもうてるやん」

「しー、起きてまう」


部屋に入ってきたお母さんに向けて静かにというジェスチャーをする
目を覚ました時は部屋に侑がおってびっくりしたけど、様子を見る限り心配してくれたんやろう、ベッドにもたれ掛かるように寝てる侑を眺めて思わず微笑んだ


「ありがとう、侑」

prev next




- ナノ -