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6月に入って梅雨の時期

この時期は体育館も蒸し暑いし、気分が落ちる
今日は部活が休みやから涼香とデートする約束をしとるんやけど、俺の傘に入って横並びで歩いてる涼香は上の空


「涼香?聞いとる??」


ハッと顔を上げた涼香はこっちを見て首を傾げる
この時期になると涼香はあの日のことを思い出す

涼香の夢が終わってしまった日
俺らのせいで奪ってしまった日

毎年涼香が物思いに耽る姿を見て俺もサムもあの気持ちを思い出す


「ごめん、ボーッとしてた」


何でもないという顔
去年本音は聞いてる
まだバレーの夢を捨て切れてない涼香


「何で看護師なん?」

「え」

「進路、何で看護師なんかなって」

「前に言うたように怪我した時に看護師さんがかっこいいなって思ったからやで」


そう答える涼香は多分本音
俺の表情を見た涼香が困ったように笑う
ほんま顔に出る癖なんとかせなあかんなとは思うけど涼香にならバレてもええかと思うのは溺愛しすぎやろか


「あんな、きっと私はこの先も怪我したことをずーっと悔やむと思うねん
けどだからってウジウジしてんのはちゃうやろ?」

「まあせやけど…」

「怪我ってな、思ってるより怖いんよ
当たり前が当たり前じゃなくなるかもしれん
そうじゃなくても心は落ち込むし、完治してもその時の苦しい思いは消えへん

そんな患者さんを前にして元気にしてあげられるってすごない?お医者さんが怪我を治してもその後のフォローがあるかないかって大事なことやと思うんよね

せやから私は自分みたいに落ち込んで引きずって、ウジウジしてる人の背中を押してあげたいんや」


ちょっと驚いた
涼香のことやから前向きな理由とは思ってたけど、そない考えてのことやとは思わんかった

涼香は怪我のことを引きずるのは当たり前やと割り切ってる
その上でそれを受け入れ乗り越えていく道を選んだんや

昔から思ってたけどホンマに強いと思う
芯がしっかりしてるって簡単に見えてとんでもなく難しいのに涼香はブラさへん


「かっこええな」

「せやろ」

「ホンマにかっこええ」


こんなかっこええ幼馴染がおるってだけで俺は恵まれとるんやなって心底思う
ましてやその子が彼女とか奇跡に近い


「俺よりかっこええの何なん?」

「侑もかっこええけどね」

「うーん、それとはちょっと違うような気もするけどなあ」


涼香のことは人として尊敬する
そう思えば思う度に俺が彼氏でええんか?って疑問が生まれる

涼香への気持ちはほんまやしずっと傍におりたいけど、いつか涼香が離れていくんやないかって不安にもなる


「ええんよ、侑のほんまにかっこええとこは私だけ知ってたらええんややから」


悪戯げにはにかむ涼香に心臓がバクバクと早くなる
そんな俺を見て涼香が笑顔になるからもやもやしていた気持ちは一瞬で晴れていく

きっと涼香には一生敵わんのやろう

嬉しそうな涼香が愛しくて傘の下でそっとキスをした


「好きやで」

「うん、知ってる」

「いーや知らんなあ、俺がどんだけ好きかちゃんと分かっとる?」

「え、っと…侑?」


戸惑う涼香が可愛くて口角が上がる
笑顔も困ってる顔もどの瞬間も可愛い

もし仮に涼香が離れていっても俺から離れることはない
プロになってバレーで飯食っていくって決めてるからいつになるかわからんけど、ちゃんと時が来たら涼香の人生も背負っていきたい

そんなことを考えながらもう一回キスをする
彼女の前ではいつでもかっこええ自分でいたいやん?

照れてる涼香の顔を見て緩む頬を実感しながら幸せを噛みしめた






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