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「うっ、寒…」


もう12月やから寒いのは当たり前なんやけど、それにしても今日は一段と冷え込んでる気がする
今日はたまたま部活が無かったので治と二人で学校が終わってそのまま新大阪駅までやってきた

勿論侑を迎えに来たんやけど、まだ時間あるみたいやから二人仲良くカフェで時間を潰す


「治相変わらずよう食べるなあ」

「なんや今更、食欲無い俺なんて見たことないやろ」

「確かに」


夕方やのにガツガツとサンドイッチを食べてる治
宮ママが作った晩御飯食べれんなったりせんのやろか…


「せや、一個聞いてええ?」

「うん?」


もぐもぐしてる治を眺めながらコーヒーを飲む
あ、このコーヒー美味しい

チラリと私の方に目を向けた治は相変わらず整った顔立ちやからか、周りの女の子が治をチラチラ見てる


「涼香は進路どうすんの」

「私?せやなあ、とりあえず大学には行こうと思うで、治は?」

「…まだ決めてない」


その回答が意外で思わず治の顔を見てしまう
即答でバレーを続けると返ってくると思ってたけど…


「…そっか」

「…聞いてこんのやな」

「まあびっくりはしたけど、何か考えがあるんやろ?」

「おん」

「ほんなら決まったら聞かせてな」


それまでは余計な詮索はせんとこ
幼馴染でも踏み込んでいいラインとそうじゃないラインはあると思う
ここは治からそのラインを超えてくるのを待とう


「涼香…もしな…もし俺が高校でバレー辞めるって言うたらどない思う?」

「え、別にええんちゃう?」

「なっ…そないアッサリ?」

「だってプロ目指さなアカン理由も大学でバレー続けなアカン理由もないやん」

「せやけど」


何か言いたげな治を真っ直ぐ見据えて首を傾げる


「それとも何、私が怪我してバレーできんなったから気遣ってる?」

「……俺らを庇ったせいで涼香は」

「ストップ」


手を伸ばして治の頬を摘む
こんだけ食べるくせに太らんのは毎日運動してるからなんやろうか
ほっぺたも余計な肉ついてなくて羨ましい


「にゃにしゅんにぇん」

「私は、自分の代わりにバレーを続けてほしいなんて思ってないで」

「っ」

「治が選んだことなら何でも応援する
せやから心の底からやりたいことをして」

「…おん、わかった」


少し安心したように治が微笑むから私もニコッと笑う
治のやりたいこと、今から聞くのが楽しみや


「…ってヤバ!ツムが着く時間や!」

「え!!」


慌てて二人して席を立ち、改札まで走る
改札の向こうから赤いジャージに身を包んだその姿に治と二人で顔を見合わせて微笑み合う


「おかえり、ツム」

「おかえり、侑」


私らを見た侑は少しキョトンとした表情をした後で、いつものようにニカッとはにかんだ
昔から変わらないその笑い方


「ただいま」


改札をくぐって傍に来た侑に駆け寄れば、侑は嬉しそうに口角を上げていた


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