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兵庫代表を決めるインハイ予選を難なく通過した稲荷崎男バレ
勿論女子もしっかり通過したらしくて、あかりが嬉しそうに報告してくれた
いよいよ今日からインハイ本戦
全国各地から強豪たちが集まってくるためかこっちまで緊張してしまう
「おー、あれは白鳥沢、あっちは梟谷、向こうには井闥山、強豪揃いやなあ」
「ツム、置いてくで」
「おお、スマンスマン」
すぐにキョロキョロしてどこかに行こうとする侑のお目付け役は治や
私は今回は前の試合の状況や、休憩室の確保などサポートに徹する
サブアリーナでアップをしている選手達の荷物番をしていると、トントンと肩を叩かれた
そこにはあかりや秋染さんなど女バレの面々
「やっほー、次試合なん?」
「うん、あかり達は今から?」
「そう、一足先に暴れてくるわ」
へらっと笑ったあかりにエールを送る
今年に入ってからあかりのスパイカーとしての能力はかなり上がってる
全国の二年生の選手中では三本指に入るほど上手いWSや
女バレを見送ってからコートにいる選手を眺めていると、ふと北先輩に目が止まった
緊張はしてないんやと思う
せやけど、どことなくテンションが上がってるのは気のせいやろか
数ヶ月前のことが脳裏を過ぎった
あれは今年の一年生が入部してすぐのことや
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「ほんなら今からユニフォーム配るで」
黒須監督と大見コーチともに部員の前に立つ
貰えると確信してる侑や治は監督の話を聞かんと何やら雑談しとる
「1番 北」
「ハイ」
前に聞いたことがある、北先輩は中学三年間そしてこの稲荷崎では二年間試合はおろか、ユニフォームを貰ったことがないらしい
そんな北先輩が稲荷崎で1番のユニフォームを与えられたんや
1番のユニフォームを大見コーチから受け取り、前に来た北先輩に手渡す
先輩は淡々とした動作で元いた場所に帰っていく
「次 2番大耳〜」
「ハイ」
2番のユニフォームを大見コーチから受け取った時に双子と倫太郎、結やアランくんなどがざわついているのが見えた
何やと思って大耳先輩にユニフォームを渡した後でみんなの目線の先を追えば北先輩がボロボロと涙を流してた
「(北先輩も泣いたりするんや)」
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あの時の涙が喜びによるもんやってことくらい一目で分かった
毎日当たり前のように当たり前のことをするって難しいことや
卒なくこなす北先輩のことを近寄り難いって思ってる部員も多いと思うけど、そんな北先輩やからこそ生まれる安心感もある
「那月、ボーッとしてどないしたん」
アップが終わって帰ってきた部員たち
北先輩が私にそう声をかける
「ふふ、何でもないですよ」
「?」
北先輩は問題児たちをまとめ上げる凄い人やと思う
本人がどう思ってるかは知らんけど、私はそんな北先輩を信頼してる
北先輩に笑顔でタオルを差し出せば、先輩は「ありがとう」と、タオルを受け取った