「で、その毒薬を作って来いって言われたんだ」
「はい!理論上はこれが一番効果があるって!」

笑顔で瓶を見せてみせる奥田に、○子は「毒薬を持ってご機嫌な女子中学生ってなかなかにシュールな図だよな」と思っていた。隣ではカルマが興味深そうにその瓶の中身を眺めている。こちらも普通の中学生では見られない図でだろう。どう見ても(中学生のする域を越えた)悪巧みをしている顔だ。
殺せんせーに渡されたという毒物の保管方法が書かれた説明書に「手厚いなぁ」とこぼす渚越しに、○子はその紙を覗いてみる。「先生ってちょこちょこ絵が上手いよね」と呟くと、「見るところはそこなんだ?」と茅野からのツッコミが飛んできた。
そんなことをしている内に授業の時間になったのか、殺せんせーが教室の扉を開ける。

「あ、来たよ。渡してくれば?」
「はい!」
「頑張れー」

気だるげに手を振る○子に律儀に頷いて、奥田は殺せんせーに毒薬を差し出した。いただきます、とそれを喉に流し始める殺せんせーに異変が現れるのは、それからすぐの事だった。
低い雄叫びとフラッシュのような光。思わず目を覆ったE組の目に飛び込んできたのは――教卓の上でどろっと液体状になった担任の姿だった。

「「「(溶けた!!!)」」」
「(何でちょっと満足そうなの?)」

心の中で同じことを思わず叫んだE組をよそに、○子はうわぁとニタニタ笑っているその物体を眺める。服は床に落ちてるけどつまりあれは全裸の状態ってことなの?…いらん事を考えてしまった自分を少し呪った。
液体状になった殺せんせーは、スライムのようにとてつもないスピードで教室中を跳ね回り始めた。床や机の中に潜り込めるらしい。そんな状態の彼を仕留めるなんて無理ゲーもいいところである。

「だっ…騙したんですか殺せんせー!?」
「奥田さん、暗殺には人を騙す国語力も必要ですよ」

優れたものが作れたところで、正直に「それは貴方を害するものです」なんて言えば、その相手はそれを受け取らないだろう。逆に利用されて終わりだ。「ならどうするのが良いか」という問いに答えている渚の言葉を聞きながら、○子は「昔そんな事習ったなぁ」とぼんやり過去を思い出していた。自分が「忍者の卵」だった頃の話である。人を欺くのが異様に上手い先輩なんかもいたな、と某変装名人の得意げな顔を思い出した。いやあの顔は彼の同室のものだったわけだけれど。

「君の理科の才能は、将来皆の役に立てます。それを多くの人に分かりやすく伝えるために…毒を渡す国語力も鍛えてください!!」

殺せんせーのその言葉に、奥田は大きく返事をする。普段引っ込み思案な彼女とは思えないその力強い声に、クラスの皆の顔にも心なしか笑みが浮かんでいた。
そこで○子はある事に気が付く。

「…あ、先生が液状ってことは、もう今日は授業無理ってことだよね?穴掘り行ってこよーっと」
「!?綾部さん!?だ、駄目です、ほら、先生もう薬の効能切れましたから!授業は普段通り出来ますよ!?」
「おやまあ、どっちにしても、さっき全裸晒してた先生の授業を受けるのはなぁ」
「全裸…?そうか、服は脱げてたから、液体状になってたとはいえ、つまり…」
「うわぁ…」
「にゅやーー!?誤解ですッ!!皆さんもそんな目で先生を見ないで!」

慌て出す殺せんせーの隙をついて窓から抜け出した○子が後でお説教をされるのは、言わずもがなである。


150123→200410 毒の時間




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