殺せんせーに(空っぽにした)財布を返して山を降りようとした道すがら、ざくり、ざくりという土を削る音が聞こえてくる。何の音かという顔をしたカルマに、渚は「綾部さんじゃないかな」と辺りを見渡した。

「綾部さん?」
「カルマ君も聞いたことない?一晩でグラウンドを消滅させた噂とか」
「あぁ穴掘りしまくってる人か。E組だったんだ」
「確かカルマ君と席近かったんじゃない?」

「ほら、窓際の一番後ろの」と続ける渚の言葉に思い出してみれば、確かにそんな子がいたかもしれない。自分の左側の、二つ分席が空いたその隣。ふんわりとした髪の女子。あんな子が噂の「穴掘りの変人」だったとは思いもしなかった。
いや、変人というのはそうなのかもしれない。昨日の小テストの時なんかは、殺せんせーにバレないように居眠りをしていたし。(自分が言うのも何だが、あんなに騒がしかった中で一度も起きなかった彼女はなかなかの図太い性格なんだと思う)

「へーえ、面白そうじゃん。まさか同じクラスになれるなんてラッキーだなぁ、いろいろ協力してもらおう」
「でも…綾部さんは暗殺には参加しないみたいだよ?」
「いや暗殺じゃなくてイタズラの方でね」

ニヤリと笑ったカルマに渚は「あ、そう…」と言うしかない。とんだ協力タッグになるんじゃなかろうか。
そんな会話をしながら見つけた彼女は、案の定土にまみれた格好でシャベルを動かしていた。今日の穴はこの前のものより小さいらしく、中に入ってはいないようだ。近寄ってきた二人に気が付いたのか、背を向けていた○子がくるりと振り返る。

「あれ、潮田と……あの、たこ焼き食べさせられてた人。何か用?」
「…その覚え方やめてくれない?」

間髪入れずに否定を入れるカルマに渚は苦笑いを浮かべた。そりゃあ、今さっきすっきり出来たとは言え、クラスメイトの女子に自分の失態を掘り返されたくはないだろう。

「彼は赤羽カルマ君。今日一日あんなにいろいろあったのに、綾部さんは知らなかったんだ…?」
「うん」
「綾部さんは今何してたの?」

カルマにそう問われ、○子はさっきまで掘り進めていた穴に目を向ける。

「いや、特に何も。ここの土はどれくらいまで掘れるのかなって」
「なーんだ、落とし穴じゃないんだ」
「だってこんなところに落とし穴を掘っても利点がないじゃない」

山にはE組や先生達しか登ってこないし、そもそもここは校舎に近いわけでもない。深さを確かめるのに満足したらしい○子は、掘り出した土を穴に放り込み始める。それを見ながら「じゃあさぁ」と続けるのはカルマだ。

「今度はもっと面白い場所に掘ってよ」
「面白い場所って、カルマ君…」
「何なのこの人。すっごい企み顔してるんだけど」

そういや教卓に生蛸放置してたりしてたなぁ、と○子は今朝の惨状を思い出す。自分は席が離れてる分よかったが、教卓の目の前にいた磯貝なんかは磯臭くてたまったもんじゃなかっただろう。磯貝だけに。

「駄洒落じゃん」
「何が!?」

突然つっこみだす○子に律儀に返してくれる渚は良い子だ。そんなコントのようなやりとりをする二人に笑いながら、カルマは思い付いたように言う。

「そうだ、これから渚君と何か食べに行くんだけどさ、綾部さんもどう?」

「そこでイタズラの計画でも立てよう」と笑うカルマに、誘われた○子はカーディガンに付いた土を払いながら首を傾げた。

「赤羽の奢りならかまわないよ」


150122 二択の時間




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