「へぇ昨日の宿題が多かったのって、先生の人間としての器の小ささのせいなの。先生の教師らしからぬところのせいなの」
「聞こえてますよ綾部さんっ!?」
「ていうか殺せんせーは「人間」じゃないよな…?」

淡々と、しかし本人に聞こえる声の大きさで事実を述べていく○子に、隣で準備運動をする渚は苦笑いだ。普段暗殺には不参加な○子が、今までで一番殺せんせーを殺しにかかっている気がする。精神的な意味で。あ、殺せんせー泣いてる…。

「でも綾部って増えた分まで宿題しっかりやってくるタイプだったんだー、ただでさえ面倒がってやらなそうなのに」

カラカラと笑いながら頬をつついてくる中村に、他の皆も「確かに意外だ」といった表情だ。それに対して○子は腕のストレッチをしながら何気なく答える。

「簡単なことだよ、増えた分の宿題をやるっていう面倒と、先生に追いかけ回されてお説教されるっていう面倒。どっちの方がしんどいかって分かりやすいでしょう」
「た、確かに分かりやすいけど」
「そもそも出された宿題はやらないと」

「学業に勤しむのが学生の本業だからね」といけしゃあしゃあと続いた言葉に、どこらか「いつも隙あらばサボろうとしてるのにどの口が言うんだ」と誰かがつっこんだ。その通りである。
それに頷くのが片岡だ。

「綾部さんにはもっと暗殺に積極的になってもらわなきゃね、昨日だって皆で暗殺しに行ってたのに」
「あー、ハンディキャップ暗殺大会があったんでしょう?私がいてもいなくても変わらないよ」
「もう、そういう事じゃなくて!」

そんなやりとりがあったところで、スーツ姿の烏間が磯貝と前原に話しかけ、そこで一端生徒達のおしゃべりは途切れる。
「こういうクラスメイトのやりとりは昔を思い出すな」と○子はこっそり息を吐いた。自分が忍を目指し学んでいたあの頃、やはり○子は今とそう変わらずだったのだが、今と同じように世話を焼いてくる奴なんかもいたりした。やれ真面目に授業を受けろ、やれ穴掘りをしすぎるな、と。
かつての同室の級友を思い出ししみじみとしている○子の脳裏に、ふととある人物が過ぎる。その人は、かつての自分の先輩にあたる人物だ。

「(滝ちゃんと最後に会ったのは、忍術学園を卒業して二回目の春が来た頃にお茶をした時。…立花先輩に、最後に会ったのは、………)」

現在の月では永遠に見られない、満月のあの夜。 その日、あの時、あの人は───……

「カルマ君…帰って来たんだ」

ふいに、渚の声で○子は我に返った。気付かぬ内に張り詰めていた息を吐き出して声につられて下がっていた目線を上げれば、そこには一人の生徒の姿。制服姿でにこやかに笑うその彼に、 ○子は吹けない口笛の代わりに「ひゅー」と口ずさんだ。何ともやる気のない感嘆の仕方だが、その視線は彼の右手に向けられている。
誰だか知らないけど彼、やる気満々じゃないか、と。


150121 基礎の時間




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