とある日の放課後のことである。ばぁん、という木の幹に何かがぶち当たる音で穴の中の○子は目を覚ました。

「何?キャッチボール?」
「うわっ!綾部!?どっから出てきてんのお前!?」
「び、びっくりした…また穴掘ってたの?」

ひょっこり穴から顔を覗かせた○子に驚いたのは杉野で、音の原因らしい木の近くには野球のグローブを抱えた渚が立っている。キャッチボールをしていた二人のちょうど中間の場所で顔から上だけの姿でいきなり登場した○子に、渚は冷や汗を流した。何でさっきまでその穴の存在に気付かなかったのだろうか…と。

「心臓に悪いから驚かせんなよ…」
「勝手に驚いたのはそっちでしょう。私は先にここにいてただ昼寝してただけだよ」
「綾部さん…穴の中で寝てたの…?」

まあね、と穴から這い出てくる○子に、男子二人は顔を見合わせる。
この綾部○子という女子は穴掘りが好きな変人として有名だった。E組ではこのクラスに落ちた理由を自分からは話せど相手に訊くことはあまりしない。が、○子おいては「学校中を落とし穴だらけにした」だの「一晩でグラウンドの土をすっからかんにした」だのと、多数の噂が本校舎でも囁かれていたので、その中のどれかが原因なんだろうなぁとE組の面々はなんとなく予想していた。E組に落ちてまで穴掘りを続ける彼女に、「何がそこまで綾部をそうさせるんだ」「そもそも穴掘りって何だ」といった感じである。

「そうだ!そんなに穴を掘れるなら、綾部も才能を活かして暗殺に使えばいいんだよ!」
「それいいアイディアかもね、杉野が野球で挑むのと同じように、上手く殺せんせーを殺せるかも」
「…才能?」

何のことだと首を傾ける○子に、杉野が対先生BB弾が埋め込んであるボールを出して笑った。これを自分の才能を用いた投げ方で殺せんせー暗殺に使うのだと。成程さっきのキャッチボールはその練習だったのか、と○子は納得した。

「ほら、さっき綾部が出てきた落とし穴とか、殺せんせーならすぐ落ちそうじゃん?」
「…いやこれ落とし穴じゃなくて蛸壺なんだけど」
「どんな穴でも殺せんせーなら案外簡単に引っかかりそうな気もするしね」
「な!今度やってみろよ!」

「穴に落ちたところでとどめを刺せば!」と、にかっと笑う杉野に、○子は肩を竦めて答える。

「やだよ面倒だもの」


150121→200410 野球の時間





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