「E組に落とされて一番良かったことは、本校舎よりも校舎の周りの地面が穴掘りに適していたこと」だと、綾部○子は思っている。
山の中にあるこの場所は、本校舎のように立派に整備されたグラウンドやコンクリートの地面とは違って、「あの頃」と似た感触を与えてくれる。それを○子は気に入っていた。E組に編入させられたのは成るべくしてなったとことだったが、以前のクラスメイトや教師達の蔑みなんてどこ吹く風だった○子にとっては、ただの喜ばしいクラス替えに過ぎなかったのである。
四月に入って、気温もだいぶ暖かい。もうブラウスの上にカーディガンを羽織るだけで十分で、上から吹き込んでくる柔らかな風がスカートのプリーツを揺らした。ざくり、とスコップを地面に突き刺して、ふと上を見上げてみる。朝の状態でもうっすらと見える月の形。三日月の形をしたそれは、現在の「担任教師」の犯行であるらしい。…かつてアポロが月に行って踏みしめたという「人類の新たな一歩」も一緒に消し飛んだのだろうか。そんなくだらないことを考え始めた○子に、かかる声が一つ。

「おはよー○子、今日も朝早くから掘ってるんだね」
「茅ちゃん」

穴の上から覗き込んでくる茅野は、「今日はまた一段と深いね」と苦笑いを浮かべている。穴の深さは立った状態の○子が頭まですっぽり入っていられる程だった。
茅野に挨拶を返しながら身軽に穴から出た○子は、何用だと首を傾げる。

「もう朝のHR始まるよ。今日は出席確認の時に一斉に射撃するんだって」
「一斉に?」
「そう、クラス全員から狙えば当たるかもしれないから」
「ふーん…」

マッハ20で動ける生物に、たかだか中学生26人が仕掛けたところで効果があるのだろうか。○子の言わずとしたことを茅野も思っていたのか、「もしかしたらもしかするかもしれないし、ね?」と困ったように笑っている。

「めんどくさーい…サボっちゃ駄目?」
「駄目だよ!?っていうか…サボってもどっちにしろ先生に連れ戻されるんじゃない?」
「…あのタコみたいなのに?」
「あのタコみたいなのに」

頷き返され嫌そうに顔をしかめる友人に乾いた笑いを返して、茅野はその手を引いて続けた。

「ほら、行っくよー」
「…おやまあ、茅ちゃんったら強引だなぁ」

本日快晴。今日も三年E組の暗殺教室が始まる。


150121 暗殺の時間




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