「磯貝ってマゾ?」
「……え?」

体育の授業で行われている、普段通りの訓練の時間。ただいつもと違うのは、珍しく○子と磯貝がペアを組んだ事だろうか。模擬戦闘の訓練であるので葉の影に身を隠したところで、磯貝に投げかけられた言葉がこれだ。何の脈略もないそれに、思わず声を上げてしまうのは仕方のないことだろう。

「綾部どうした?藪から棒すぎだろ」
「いやだって、磯貝が良い奴すぎて何か心配になるレベルだったんだもの」

今日この二人がペアを組んでるのは、フラフラと授業を眺めていた○子を引っ張る形で磯貝が誘ったからだ。授業に参加できていないクラスメイトを率先して輪の中に入れる――まさに学級委員長の鑑といえる。
(○子が不真面目に受けているというのもあるが、)前原なんかと組んだほうが訓練も上手くいくだろうに、本当お人好しだな、この歳でこんなに気遣いが出来て大丈夫なのかな、なんて余計なことを○子は考えたのだ。

「私が掘った穴に落ちて、とか言ったら落ちてくれそう」
「そんな「変な壷買いそう」みたいに言われても…」

苦笑いを浮かべながらも「そう言われたら、俺が落ちるんじゃなくて殺せんせーの暗殺に使わせてもらうかな」と返す。そりゃ彼だって穴に落ちたいわけがないのだ。

「それより、綾部だって良い奴だろ?」
「…おやまあ、なぁに、今度はそっちが藪から棒に」
「いやだって、こうやって俺のこと心配してくれたんだから」

爽やかな笑顔と共にそう返され、思わず目を丸くした○子は、その意味を解釈して苦々しげに磯貝を見上げた。先程の磯貝と同じように聞き返した○子に、同じく先程と同じ流れの返答をした彼は、おそらく何の嫌味も含めず天然でそれを返したのだろう。

「…磯貝ってやりにくい」
「そうか?俺は綾部と話すの楽しいけどなぁ」

わざとらしく口を尖らす○子に、磯貝は本当に楽しそうににこにこと笑った。


151004




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