中間テストは惨敗だった。E組を取り囲んでいる壁は分厚いのだと心の底から痛感させられたのだ、あの理事長によって。
けれどカルマの機転によって殺せんせーがこの学校を去ってしまうという事態は避けられ、ポコポコと顔を赤くする担任教諭にE組の面々は声を上げて笑った。きっと、次のテストでも彼らは戦っていけるだろう。
──と、○子は先程までの出来事を思い起こす。教室の後方から眺めたその時の光景は、なかなかに愉快だった。クラスメイト達があんなにも、もっと言えば成績関係で明るい顔をしていたことは今まで無かっただろう。
放課後の静かな教室は、夕日に照らされてどこか寂しげだ。「次に向けて皆で今回のテストの復習をしよう」という片岡達の誘いを断って未だ家路につかない○子の手には、皆が返されたのと同じように採点されたテストの答案が握られている。テストの採点結果を見てはいなかった。だって見なくても結果は自分で分かっていたのだから。

「綾部さんは今回のテストについて、どう思いましたか?」

瞬きの合間に目の前に現れたらしい殺せんせーは、触手を揺らしてそう問いかけてくる。それに驚くわけでもなく、○子は肩を竦めた。質問には答えない。

「では綾部さん、質問を変えましょう。何故白紙の状態で提出したのか、先生に教えてください」

握られていた答案用紙はぬるりと奪われ机の上に開かれる。確かに空白ばかりで、赤色の曲線は見受けられなかった。怒っているわけではないのか、殺せんせーの顔色は平常時と同じ黄色で、いつもと同じつり上がった口とつぶらな瞳で返答を促してくる。

「先生は50位以内を目指せって言いましたよね?」
「でも先生は今ここにいるじゃないですか、結果オーライってやつでしょう」
「綾部さんは授業をちゃんと受けてはくれませんが、小テストはいつも満点だということを先生は知っています」

「授業を受けてくれないのは悲しいですが」とめそめそ泣く殺せんせーを見る○子の目は冷ややかを通り越してもはや無、だ。入らないツッコミに諦めたのか、ごほん、と咳払いをして続けられる。

「テストは今まで勉強してきた実力を発揮する機会です。綾部さんならもっと良い結果を出せたはずでしょう」
「…買い被りすぎじゃないですか」
「先生は生徒を買い被ったりなんかしません」
「……テストは実力を発揮する機会なんですよね?…それなら、これが「今」の私の実力ですよ。まぁただ…「フェアじゃないこと」にはフェアじゃない形でやり返す事もありますけど」

それだけ言って、○子は座っていた椅子から立ち上がった。鞄を手に取ると、徐ろに殺せんせーを見上げる。猫のような目で殺せんせーの顔をじっと眺めると、普段そう上がらない口端を緩く上げた。でもそれは、微笑みとはまた違ったものに見える。

「さようなら、先生」
「…はい、さようなら」

ガラリと大きな音を立てて古いドアが閉められ、次に聞こえていた足音も消えていった。それを見届けて、殺せんせーは机に残されたそれを見下ろす。
確かに空欄ばかりの答案用紙だ。消しゴムの消し跡も見当たらないから、悩んだ末の空欄というわけでもないのだろう。基本テストでは分からない部分も何かしらの解答で埋めるものだ。「綾部○子」と細っこい字が氏名欄に書かれていること以外は、印刷したままのものと変わらない。
──問11以降の問題を除いて。
それまでの問題の真っ白さは何なのかと疑問になる程に、そこから最後までの解答欄は完全に埋まっていた。減点する余地もない、模範解答ともいえるそれに、勿論付けられている赤色は大きな曲線だ。

「なかなか難しい生徒ですねぇ…」

ぽつりと呟かれたその言葉は、夕日のおかげで赤く輝く教室に溶け、そして消えていった。


150228 テストの時間




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