「君はいつになったら「本気」を出してくれるのかな?」
非の打ち所のない微笑みは酷く嘘臭く見える。それが「昔」の経験故なのか「今」のカンのおかげなのかは分からなかったが、これが当たっているだろう事を○子は確信していた。
「この問いも何回目になるのかな…いい加減にしてくれないと、流石の私もフォローというものが出来なくなる」
「…誰もフォローしてくれなんて頼んでませんけど」
「それに、」と○子は相手の目を見据えて続ける。
「「最初」にお見せしたのでもう十分でしょう?」
「…それが答えかい?…君は賢くて「強く」なれる側の人間なのに」
優しいのは声だけで、どんどん相手の目が冷えたいくのが見て分かる。以前から続いていたこの問答からやっと解放されるのだと、○子は清々した気分だった。
──この数日後、綾部○子にE組落ちが通告された。
「NARUTOだったら我愛羅が好きかなぁ」
ふいにそうこぼした○子の視線は、寺坂の目の前にいる殺せんせーの残像に注がれている。更に詳しく言えばその残像のしている額当てを見ているのだが。
その呟きを聞いていたらしいカルマが、面白そうにこちらを向いて笑う。
「何で?砂を使うキャラだから?」
「いや特に理由はないけど…なんとなく…」
「へぇ?」
「ていうか綾部さんもNARUTO知ってるんだ」と意外そうにするカルマに、○子は「まぁね」と欠伸で返した。
こんな暢気に無駄口を叩いている二人の机の前にも、殺せんせーの残像は存在している。むしろテスト勉強初日よりもその数は増え、そしてまさに現在進行形である。
「カルマ君も綾部さんも、真面目にテスト勉強を進めてください!先生困ってますよ!?」
「だーって俺もうテスト範囲は終わったじゃんか」
「じゃ、じゃあ、せっかくだからもうちょい先行ってみましょう!」
「もうちょい!!」と教科書を指す三つの残像に、流石のカルマも微妙そうな顔だ。それでもなんだかんだいって従う辺り、彼も復学したての頃より大分丸くなったのだろう。
それをぼーっと窓際から眺める○子にも、普段より大分数が多い殺せんせーから焦りの声がかけられていた。四方向囲まれている、逃げ場はないようだった。
「綾部さんも、ほら、しっかり勉強しましょう?」
「えー、私はいいですよー」
「そんなこと言わないでください、やればきっと苦手も克服出来ますよ」
「苦手教科とかはないんで大丈夫大丈夫」
くあ、とまた一つ欠伸をしてそう返す目の前の生徒に、殺せんせーははた、と動きを止める。担任として、勿論生徒達の成績は把握していた。誰はどの教科が得意でどの教科が苦手なのか、それもしっかり理解している。生徒達一人一人に合った勉強内容や指導方法を考えるのに重要だからだ。
だからこそ、○子のその返答が引っかかった。
「綾部さん、……貴方は、」
「それじゃあ先生、おやすみなさーい」
「にゅやッ!?あ、綾部さんー!?ちょ、寝ないでください!?」
しかし殺せんせーがそれを問い質そうとする前に、○子は机に突っ伏す。そしてテスト勉強の時間中に彼女が起きることはなかった。
150220→200410 くるくるの時間