「深亜ー、俺の携帯鳴らしてくれん?」
浴室の方へ行っていた千歳は戻ってくるなり、困り顔で深亜にそう言った。「携帯見つからん……」首に手を当て、千歳はため息をつく。先ほどから家中を歩き回っていたのはそういう理由かと、深亜は納得した。
「さっきここで使ってなかった?」部屋の中を見渡しながら、深亜は手を伸ばしテーブルの上の携帯を掴んだ。手早くリダイヤルから千歳の番号を見つけ出す。
断続的な電子音の後、コール音が深亜の耳に届く。一拍置き、部屋の中にかすかなメロディーが鳴り渡った。
「…………」
「ん? ベッドね?」
音のするベッドに乗り上げ、首を巡らせていた千歳は「お、あった」と壁際から携帯を拾い上げていた。どうやらマットと壁の隙間に携帯は落ちていたようだ。
しかし、深亜が気になったのはそこではない。
「……なんでトトロ」
「ん?」
そのままベッドに腰掛ける千歳を、深亜は一瞥する。
千歳の携帯から流れたのは、あの有名映画の主題歌だった。着うたではなかったが、深亜も幾度か千歳につき合って映画を観ているので、自然と覚えている。
いくら好きでも、その歳になってそれはどうなのかと深亜は呆れるが、深亜が覚えている限り、千歳の着メロがジブリ系統でなかったことはないので、そのこだわりようは筋金入りだ。
確かその前はナウシカの主題曲で、その前はラピュタの主題歌(ついでにオーケストラバージョン)だった。
(……ジブリマニア)
「深亜、いま失礼なこと考えとらん?」
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