(同棲設定)



 テレビから聞こえてきた『エイプリルフール』の言葉に、深亜は部屋の壁に掛けられたカレンダーを振り返った。三月三十一日の昨夜の内に千歳がめくっていたので、それは当然ながら四月を示している。
 そこでようやく気づいたように、深亜は「ああ」と呟いた。

「今日エイプリルフールか……」
「ん?」

 観るとはなしにテレビ画面を眺めていた千歳が、深亜の声に顔をこちらへ向ける。

「なん?」
「いや――」

 別になんでも、と言おうとして、ふと深亜は思いついた。「ねぇ」と千歳に問い掛けながら、自分の腹部に両手を重ねる。

「赤ちゃんができた――って言ったら、千里はどうする?」
「は?」

 唐突な告白に千歳は目を瞠ったが、先ほどから変わらない内容を流しているテレビに目をやり、深亜の意図を読み取ったらしい。
 深亜の方へ向き直った千歳は笑っていた。その笑い方はろくでもないことを考えている時のものだと、深亜は経験上知っている。

「まず婚姻届ば出さなね。そんで深亜ん家さん挨拶行かんと」
「……逆じゃない?」
「先ん籍入れとけば、姉ちゃんがどぎゃん反対しても深亜は俺の奥さんだけん」
「余計に姉さんを怒らせるだけだと思うけど、それ」

 ふぅ、と深亜はため息をついた。今さらこのふたりに和解など望めないだろうが、互いに挑発しあうことだけはやめてほしいと深亜は思う。

「――で?」
「……なに?」
「深亜は子どもが欲しかと?」
「どうしてそうなるの」

 伸ばされる腕から逃れようとするが、肩に掌が触れたと思う間もなく力が加わる。なんの抵抗もできないまま、倒れた深亜の上に影が被さった。

「深亜ん子なら男でも女でも美人さんたい」
「……父親にもよるでしょ」
「そんなら問題なかよ」
「…………」

 暗に言われていることを理解し、深亜は目を伏せてふたたびため息をついた。
 唇に、熱い息が触れる。



ナルシー千歳。


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