卒業したばかりの中学校を訪れ、かつて共に汗を流した仲間たちと後輩指導という名目でテニス部に乱入した、その練習後。
 久しぶりに元レギュラー勢が顔を揃えたということもあり、着替えを終えても誰ひとり帰ろうとする素振りも見せず、部室に集まった数名はだらだらと時間を過ごしていた。
 そんな中、不意に小春が「あっ」と声を上げ、自身の鞄の中を探り始める。

「どないしたん小春?」

 唐突に中断された会話に、傍らの一氏がかすかに眉をひそめている。

「そうやったわ、金太郎さんにプレゼントあるん、忘れてたわ」
「うん? ワイに“ぷれぜんと”?」

 きょとりとした目で首を傾げる遠山の向こうで、同じように「あ」とミツグも思い出していた。

「ミツグ?」
「そう、俺も遠山くんにプレゼントあったんだ」
「安藤も?」

 ミツグは部屋の隅に置かれた鞄を拾い上げ、内ポケットにあらかじめ入れておいたポチ袋を取り出す。
「はい、金太郎さん」とまずは小春が、手にした包みを遠山へ差し出した。

「お誕生日、おめでとう」
「えっ? ほんまに!?」
「おめでとう遠山くん」

 昨日小春ちゃんから聞いたからこんな物しか用意できなかったけど……と苦笑気味に言うミツグは、遠山の掌に乗った小春の包みの上に、控え目にそれを置いた。

「うわっ、めっちゃうれしい! 小春も安藤もおおきにっ、ありがとう!」
「へぇ、金ちゃん今日誕生日やったんか」
「ほんなら、帰りになんか奢ったらなな」
「き、金太郎さん、小春からのはよ開けて中見てみん?」

 さり気なく輪から一歩引いたミツグに近づき、とん、と千歳はその肩を小突く。
 顔を上げたミツグは、力の抜けた表情でかすかな笑みを見せた。

「あれ、中なんね?」
「蛸ノ屋の大タコ焼き一皿分の券、十枚つづり」
「ははっ、金ちゃんにはぴったりばい」
「さすがに百人前は無理だけどさ」

 ちなみに、蛸ノ屋は商店街に新しくできたタコ焼き屋だが、その味はきちんと、遠山本人からのお墨付きだ。
 輪の中央から、遠山の興奮した声が上がる。ミツグからのプレゼントを開封したようだ。

「なんか、すごくタコ焼きが食べたくなってきた」
「どうせ今日はそん蛸ノ屋で、金ちゃんのぷち誕生会たい」
「あー、なるほど」

 直後にタコの描かれた券を握り締めた遠山が「はよ行こー」と訴え始め、千歳とミツグは顔を見合わせて密かに笑った。



金ちゃんお誕生日おめでとう!


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