店から出てきた女性たちの中に深亜の姿を見つけ、千歳はもたれていたガードレールから離れ彼女の名前を呼んだ。
 すぐに振り向いた深亜は「千里くんっ?」と驚いた表情だ。
 ひらひらと手を振ると、一緒にいる友人たちの方がからかい混じりの笑みを浮かべる。
 何事か言われているような彼女は、けれどそれを笑って受け、バイバイと友人たちと別れこちらへ駆けてくる。

「迎えに来てくれたの?」

 ん、と応え千歳は深亜の手を掬う。

「楽しかった?」
「結構飲まされちゃった」

 くすくすと笑う深亜は、なるほど確かにほどよく出来上がっているようだ。
 家でも深亜が飲んでいるのを見たことはないけれど、本人曰く弱くもないが強くもないらしい。

「歩いて帰れる?」
「ふふ、大丈夫だよ」

 深亜の指に自身のを絡め、千歳は深亜の手を引いた。
 そっと腕に寄り添ってくるかすかな体温を感じる。
 夜独特の賑わいから離れ、散歩がてらひっそりとした町並みを歩き部屋に帰り着く。
 リビングのソファに座る深亜に水を注いだコップを差し出すと「ありがとう」と深亜は微笑った。
 千歳も注いだ水を飲みながら深亜の隣に腰を下ろす。

「深亜、先にシャワー浴びてきなっせ」
「……千里くんは?」
「俺は後でよかけん」

 深亜の頭を撫で立ち上がった千歳は、服の裾を引っ張られる感覚に何事かと振り返った。

「深亜?」

 千歳の服を指先で捕らえ、不満気な顔で深亜がこちらを見上げている。

「どげんしたと?」
「……千里くんも一緒に入ってくれなきゃ嫌」

 手にしていたコップが床を転がる。
 プラスチック製でよかったと、頭の片隅で千歳はそんなことを思った。



酔うと我がままになる彼女。


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