スタッフが行き交う様子を横目に、千歳はホールを横切っていく。
この映画のためだけにわざわざ建てられたという屋敷は、山奥という立地条件も相まってなかなかに“そういう”雰囲気を醸し出している。
きょろりと視線を彷徨わせた千歳は、二階へ上がる階段の踊り場に共演者たちの姿を見つけた。隅にあるなにかを囲むように、全員がそれに注目している。
「なんしとっと?」
「ああ、千歳くん」
自身より芸歴も年齢も上の俳優である金色小春が振り返る。
「ほら、これ。今回の主役のお人形さんよ」
作っているのかそうでないのか、彼は素でもこのキャラを通している。
「ほんまに生きてるみたいやな……今にも動き出しそうや」
「そんなん映画ん中だけで充分やっちゅーねん」
まじまじと人形を見つめている白石蔵ノ介に、げんなりとした表情を浮かべている忍足謙也。共に幾度か共演経験のある俳優だ。
二人とは同世代だが、物心つく頃から芸能界で活動している謙也は芸歴でいえば先輩にあたる。だが謙也本人、あまり芸歴云々にこだわる人間ではなく、あくまで同世代としてお互いつき合っている。
さほど興味もなかったが、千歳もゆっくりと階段を上りだした。
「ちゅーか、えらい別嬪さんやけど、こんな子おったっけ?」
「新人起用する言うとったやろ――おい触んなや遠山」
遠山金太郎と財前光。同じ事務所の先輩後輩関係にあるという二人とは今回が初共演となる。
年下ながらその実力は千歳も知るところだ。
「監督さん自ら主役に抜擢したいうから、まさにシンデレラガールよねぇ」
彼らの後ろからひょい、と千歳は覗き込んだ。
踊り場の隅、磨きぬかれたガラスケースの中に、“彼女”はいた。
「…………」
目が合った――としか言えなかった。
どこまでも暗く、深く光る漆黒の瞳から、目が逸らせなくなる。
真っ赤な着物を纏い、椅子に腰掛けている彼女は、本当に生きているようで――
「あの……」
はっ、と千歳は振り返った。
階段の下に、ひとりの少女が立っていた。
「……お人形さんや」
誰かが呟く。
「挨拶が遅れてすみません。安藤深亜です」
よろしくお願いします、と少女は頭を下げる。
顔を上げた少女は、まさに人形通りの容姿だった。
魂の宿った人形に憑き纏われる男の話。主演は千歳。
千歳たちは三十路手前。金ちゃん光は二十代前半。
小春ちゃんはそれよりも上って設定。
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