とんとんとん、と小気味よい包丁音が響く。
鮮やかとしか言えないミツグの包丁さばきに、「へぇ」と謙也が感嘆といった声をあげる。
ちなみに、今日の夕食当番は四天宝寺の面々だ。
「安藤、料理できたんやな」
「まぁ、寮に入るまでは父さんと二人暮らしだったし、俺が飯を作ることが多かったからな」
「あー、そう、やったな」
「それに、熊本にいた頃、おばさんに『これからは男も料理が出来んと嫁が来ん』とか言われて、みっちり教え込まれたんだよ」
明らかに失言だったという顔をしている謙也にあえて気づかず、ミツグは笑いながらそんな過去の経緯を説明した。
さりげないミツグの気遣いに、謙也も苦笑気味に表情を和らげる。
「強かなおばさんやな」
「ああ。今思うと、ただおばさんが楽するために俺に料理を教えたんだなって気がするよ」
「ばってん、ミツグん炒飯は絶品ばい」
「千歳くん」
ひょい、と話に入り込んできた千歳は、野菜の入ったざるをミツグへと差し出す。
「むき終わったばい」
「ん、サンキュ」
綺麗に皮のむかれた野菜をまな板に置き、ふたたび包丁をテンポよく鳴らしていく。
「そんなら安藤は中華系が得意なんか」
「得意ってほどじゃないと思うけど……」
「ミツグん肉じゃがも美味かよ」
「彼女の手料理かっ。ちゅーかなんで千歳が答えんねん」
「なんやなんやっ? 美味いモンの話かぁ?」
さっきまで火の番をしていたはずの遠山が、嬉々とした顔で炊事場の方へ飛んできた。
さすが野生児、本能で食べ物の話を察知するのかと、ミツグたちは微笑ましげに笑った。
白石は独りぽつねんと火の番中。
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