着々とコートの形が出来上がっていく様子を前に、深亜は木陰に座り、ネット代わりとなる網の修繕を行っていた。
昨夜のうちに大きな穴は樺地が繕っていたが、他にも仕事を任されていた彼を見かね、深亜の方からあとは任せてほしいと申し出たのだ。
「深亜ちゃーん、どう? もう出来そう?」
コート作りの手伝いも買って出た彩夏たちがこちらに走ってくる。「あと少しってところ、かな」と深亜は返した。
「わぁ……細かいとこまで綺麗……」
「私じゃ絶対ムリな仕事だわ」
くすりと、小さく深亜は笑った。
「慣れれば簡単だよ」
「ムリっ。慣れる前に、縫ってる物と指がボロボロになっちゃうもん」
「……逆にどう縫ってるのか、教えてほしいんだけど」
「彩夏って、縫っちゃダメって言われたところも、必ず縫ってるものね」
「うるさいなぁ……どうせ私は二人みたいに器用じゃありませんよーだ」
「細かいところに、あまりこだわらないんだよね、彩夏は」
「……深亜ちゃん、それフォロー?」
え、違う? と首を傾げる深亜に、彩夏はがくりと肩を落とす。
「もういいですぅ……私は肉体労働で貢献するっ。というわけでコート作り手伝ってきまーす」
「あ、私も手伝う」
「行ってらっしゃい。二人とも、怪我しないように」
「はーい」と返事よく二人は駆けていった。
入れ替わりのように、足もとに影が伸びる。
「もう終わりそうね?」
「――千里」
目の前にしゃがみ込んだ千歳は、とんとん、と木槌の柄を肩に打ちつけながら、興味深げに深亜の手もとを見つめている。
「ほんなこつに深亜は器用たい」
「千里だって寮暮らしなんだから、これくらい当然じゃないの?」
「んにゃ、ほつれてもほかっとるけん。その内見かねた白石とかが直しとっと」
「……仲間思いの部長さんをお持ちですこと」
ぱちん、と糸を切り、網を広げて補修箇所を確認する。
綺麗に目の揃っている様子に、ふぅ、と深亜は息をついた。
「お疲れさん」
「別に……大半は樺地くんがやってくれていたから」
立ち上がった千歳に網を渡し、深亜は修繕道具を仕舞う。
軽く膝の上を払い、自分も立ち上がろうとすれば、目の前に差し出される大きな掌。
顔を上げ、半ば睨むように深亜は千歳を見据えるが、対する当人はなにが嬉しいのか、ゆるみきった笑みを絶やさない。
「深亜」
「…………」
深亜は黙ったまま、指先を千歳の手へ乗せた。
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