白石に頼まれ、探していた千歳を見つけたはいいが、当の本人は暢気に夢の世界へと旅立っていた。
「おーい、千歳くーん」
穏やかな寝顔を前にして、起こすのが忍びない気持ちになる。だが彼を連れて戻らなければ、千歳共々お説教されるのは目に見えている。
肩を多少強めに揺すると、ぎゅっと眉根が寄せられる。
意外に幼く見えるその様子に、笑いをこぼしながら肩を揺すり続ければ、「ん、ぅ……」と唸り声をあげ千歳が目を覚ました。
「あ、起きた」
「くぁ……、あー……ミツグ?」
「おはよう、千歳くん」
「おお……なんかあったとや?」
「うちの部長殿が、人手が欲しいから千歳くんを呼んで来いって言ってね」
「あー、相っ変わらず人使いの荒かね」
「ははっ。まぁ、そういうわけだから、一緒に戻ってくれるとありがたいんだけど?」
「わかっとるばい」
笑いながら立ち上がり、自分の横に並ぶ千歳を目で追っていたミツグは、ん? と千歳の後頭部ら辺で視線を止めた。
誰の目にも千歳が癖っ毛なのは明らかだが、後ろの癖だけがいつもより強く見える。
「千歳くん、後ろ、寝癖ついてる」
「え? あー……?」
「そこじゃなくて――」
自身の髪をぽすぽすとたたいている千歳に目を細め、ミツグは伸ばした片手を櫛代わりに、千歳の後ろ髪を撫で梳く。
くんっ、と絡まりに指が引っ掛かったらしく、「ああ、ごめん」と千歳の顔を一瞥し、もう片手も頭の後ろに回して慎重に絡まりをほぐしていく。髪の中でもぞもぞと動く指がくすぐったいらしく、千歳の肩が時折ぴくりと揺れる。
すんなりと通るようになった手櫛に満足し、一応は収まった髪型に頷いたミツグは極自然な動作で、千歳の頭を撫でた。
「はい、男前の完成」
「…………」
「あれ? 千歳くん?」
軽いつっこみなりなんなりが返ってくると思っていたミツグは、予想外のノーリアクションに千歳の顔を覗き込む。
しかし、なぜかすぐに顔を逸らされてしまった。
「えっ? 千歳くん?」
「……ほんなこつ、ミツグはひどか」
「ええ? 俺なにかした?」
誤字脱字、不具合等お気軽にお報せください