(某ゲームパロ風味)



 周りの目がすべて深亜へと向けられる。疑心に満ちた目。嫌悪に染まった目。
 押し潰されそうな負の感情を前に、深亜の足が後ろへと下がる。

「ち、がう……違います! わたしじゃ……わたしじゃないっ!」

 悲痛な声で叫び、深亜はその場から走り去った。
 深亜の声は誰にも届かなかった。誰も信じてくれなかった。
 もう誰も――信じられない。
 開いていた一室へ飛び込んだと同時、深亜は床へと頽れた。顔を覆う両手の隙間から、次々と涙があふれだす。

「ど、して……っ、こんな……」
「――深亜」

 びくりと、深亜の肩が震える。
 恐る恐る両手を下ろし、声の方へ振り返った深亜は、ふたたび涙をあふれさせる。

「せ、んりく……っ」

 そんな深亜へ、千歳は真っ直ぐと歩み寄ると、自身もしゃがみ込み、深亜の身体を抱き締めた。

「せんり、くん……どうしよう、どうしたら」
「心配せんでよかよ」
「本当に、わたしじゃないの……」
「知っとるばい。深亜は優しかけん、あげんこつ、でけんたい」
「でも……誰も、信じてくれな、っ……」
「深亜……深亜、泣かんで?」

 頬に触れるあたたかな手が、そっと深亜の顔を上向かせる。深亜も頬の手へ自分のを重ねた。
 安心できる体温に、なにも考えず目蓋を下ろす。

「深亜、大丈夫ばい――深亜ば泣かすもんは、俺が全部消したるけん」
「……せんり、くん?」
「ん?」

 深亜の瞳に、にこりと微笑む千歳の顔が映る。
 その笑みがどうしてこんなにも怖いのか、深亜にはわからない。



人の為と書いて。


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