手に触れるなにかに、深亜は薄らと目蓋を上げる。二、三度まばたきをし、横になったまま手に触れるなにかへ目を向ければ、尖った耳をぴくりと動かした、まん丸な瞳とかち合う。
ベッドからはみ出した自分の手をおもちゃに遊んでいたようだ。
深亜は自然と口許をほころばせた。
「おはよう……おなか空いたの?」
ベッドに手をついて身体を起こし、腰に絡みつく熱い腕をあっさりとすべり落とす。
下に散らばるシャツをとりあえずとかぶり、深亜は「おいで」と猫を連れて台所へ向かう。
缶詰を開けると反応する様子が可愛らしい。
猫が朝ご飯に夢中になっている間に洗面所へ向かい、ふたたび台所へ戻った深亜は、さて自分たちの朝食はどうしようかと考える。
いつもの朝食の時間にはだいぶ早い。今から作っても、いまだベッドで寝こける人間が起き出してくる頃には当然冷めてしまっているだろう。
ひとまず、猫の朝ご飯が終わってからかと、深亜がそう結論づけたところで、後ろからにゅ、と伸びてきた腕が深亜の身体へと巻きつく。
「深亜」
「ああ、起きた?」
おはよう、と振り仰ぐと、なぜかジト目で睨まれる。
「……なに?」
「深亜はひどか……」
「? なにが?」
ぐりぐりと頬を擦り寄せてくる千歳に「だから、なに?」と深亜は眉をひそめる。
「……起きたら隣に深亜のおらんけん」
「そんなこと?」
「そんなこつじゃなかー」
「はいはい。顔洗ったらすっきりするから、洗面所行ってきなさいな」
「……ほんなこつ深亜はひどか」
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