こんこん、と控えめなノック音に、千歳はベッドの上からドアへと目をやった。横になった身体を起こし、読んでいた雑誌を枕もとに置く。
「はい?」
「あ、あの……お兄ちゃん」
「深亜?」
千歳はつい時計を見やる。日付は変わっていないが、普段の彼女ならとうに眠りについている時間だ。
ドアを開ければ、お気に入りの猫のぬいぐるみ――千歳が買ってあげた物だ――を抱き締めた深亜が、薄暗い廊下にぽつりと立っていた。
千歳はしゃがみ込み、深亜の顔を窺う。
「どげんしたと?」
「……お兄ちゃんのお部屋で、一緒に寝てもいい?」
なんとなく予想できた深亜の言葉に、千歳はわずかに苦笑する。だが今にも泣き出してしまいそうな彼女を、追い返すはずもない。
「よかよ」と彼女の手を取れば、深亜はぱぁ、と表情を明るくさせた。
――原因は、夕食後に観てしまったテレビだろう。
たまたまチャンネルを変えた先で映ったのは、彼女が苦手としているホラー映画で――よりにもよって、ある意味ではベストタイミングなシーンを、彼女は目の当たりにしてしまったのだ。
そんな時、いつもならば同じ部屋のミユキの布団で、二人寄り添って眠っている姿を見かけたが、あいにく当の末っ子は友達の家に泊まる予定で家にはいない。
ひとりっきりの静かな部屋では、なおのこと眠れるわけがないだろう。
自身のベッドにもぐり込む深亜を見届け、消すことを告げてから電灯のひもを引く。豆電の光がぼんやりと室内を染める。
ベッドに入ると、小さな身体が千歳に寄り添ってくる。
「お兄ちゃん、ありがとう……おやすみなさい」
「おやすみ、深亜」
静かに目蓋を下ろした深亜の頭を撫でながら、千歳も目を閉じた。
「十三日の金曜日ってあれやろ、ダイソン来るやつやろ?」
確かにジワジワくる。
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