(同棲設定)



 目覚めかけの頭で無意識のうちに隣へ手を伸ばすが、捕らえたのはぬくもりの失せた冷たいシーツだった。
 千歳ははっと目を開け起き上がる。
 室内を見渡せば、その背はすぐに見つかった。
 安堵とも落胆とも取れる息をつき、千歳はベッドからフローリングの床へと脚をおろす。そのまま歩き出そうとしたが、今の自身の姿に思い留まり、とりあえず脇に落ちていたズボンを拾った。
 カーテンの開け放たれたガラス戸からは、やわらかな朝の光が差し込んでいる。ベランダへと繋がっているそこを開け、千歳は柵に寄りかかっている背へと声を掛ける。

「深亜」
「ああ、起きた」
「うお寒……なんしとっと?」
「上着てきなさい」

 しかし千歳は構わず、ベランダに出て背中から深亜を抱き締めた。
 ひょい、と深亜の頭越しに下を覗き込む。

「なん見とったと?」
「見てたんじゃなくて、聴いてたの」
「聴いてた?」

 直後、特徴的な鳴き声が千歳の耳にも届いた。

「――うぐいす」
「今まで全然気づかなかった」
「鳴き始めたばっかじゃなかと? へったくそだけん」
「鳴くのが苦手な鳥もいるんだね」

 くすくすと深亜が笑う。
 その声の方がよほど千歳の耳をくすぐった。

「……いかん、やっぱ寒か」
「もういいから、中入りなよ」

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