夕食の片づけられたテーブルに置かれたガラスの器には、一口大にカットされた西瓜が盛られていた。
今の時期はまだ旬ではないが、スーパーなどの青果コーナーでは、こうしてカットされた形で売られているのを見かけるようになった。しかし、やはりまだ早いのではないかと、彼女は懐疑的だったはずだ。
どうしたのかと目顔で問うと、バイト先の人からお裾分けされたという。
ふぅんと生返事で、千歳は添えられていたフォークを手にする。先で器用に種を取り除き、瑞々しい赤色にフォークを突き立てる。
「ん。深亜、あーん」
「…………」
ジト目で千歳を見上げた深亜は、わずかな逡巡のあと、諦めたような息をつき薄く口を開けた。
しゃり、と小さく西瓜に噛みつく。
「お味は?」
「……甘くない」
飲み込んだタイミングを見計らい問い掛ければ、深亜はそう答えた。
千歳は鷹揚と笑いながら、噛み跡のつく一欠けを口にする。
まだ青臭さが残るそれの、ほのかな甘みと水分が口中に広がった。
まだ早かった。
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